2012 Fiscal Year Research-status Report
上皮間葉転換に伴うアポトーシス制御と抗癌剤耐性機構の解析
Project/Area Number |
24701023
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
峠 正義 富山大学, 附属病院, 助教 (90456385)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 上皮間葉転換 / 抗癌剤 / アポトーシス |
Research Abstract |
まず、TGF-βで上皮間葉転換を起こしたA549細胞が抗癌剤に対して耐性を示すかを調べるため、cisplatin、paclitaxel、gemcitabine、vinorelbineを48時間作用させ、WST-1 assayを行った。その結果、上皮間葉転換を起こしたA549細胞はいずれの薬剤に対しても耐性が増し、IC50は1.4~2.0倍となった。さらに、cisplatinを24時間作用させた後にcleaved PARPとcleaved caspase3の蛋白量を比較してみると、いずれも上皮間葉転換を起こしたA549細胞の方が少なくなっていた。 そこで、上皮間葉転換に伴って何らかのアポトーシス制御が行われている可能性を考え、抗アポトーシス作用を持つBcl2 familyの発現が、上皮間葉転換に伴って変化するかを調べた。その結果、TGF-βで上皮間葉転換を誘導したA549細胞では、Mcl-1とBcl2A1の蛋白発現量が増加しており、PCRでも同様の結果が得られた。次に、これらの蛋白がA549細胞の上皮間葉転換に伴う薬剤耐性に関わっているかを調べるため、siRNAを導入して発現抑制実験を行ったところ、Mcl-1を抑制するとcisplatinに対する耐性は解除されたが、Bcl2A1を抑制しても耐性は解除されなかった。これらのことから、本実験系ではMcl-1が重要と考えられた。 そこで、cisplatinにMcl-1をターゲットに含むbcl-2阻害剤obatoclax mesylateを少量併用したところ、上皮間葉転換を起こしたA549細胞に対しても相乗的に作用し、cisplatinへの耐性に打ち勝つことが分かった。 なお、これらの結果は未発表であり、現在論文作成中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の最終的・本質的な目標は、肺癌の原発巣切除術後、転移初期の病巣を効率的に叩き長期生存を得るためにはどのような術後治療を行えばよいのか解明することであり、上皮間葉転換と抗癌剤耐性はその足がかりの一つである。この点、今回、A549細胞という一種類の癌種ではあるが、上皮間葉転換に伴って抗アポトーシス作用が増強し、cisplatinをはじめとする複数の抗癌剤への耐性が増すこと、そして、その機序の一つが肺癌では重要な役割を担うことが知られているMcl-1の増加にあることが判明した。さらに、Mcl-1をターゲットに含むBcl-2阻害剤obatoclaxを併用することでシスプラチン耐性に打ち勝つという現象を確認できた。これは、ある癌種でBcl-2阻害剤を併用した術後補助化学療法が有用となりうる可能性を示唆する。今後、予定されるであろう臨床試験に向けて、一つの分子生物学的根拠を得た点で、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
①上皮間葉転換におけるアポトーシス制御と抗癌剤耐性獲得の機序:TGF-βで上皮間葉転換を誘導したA549細胞では、非小細胞肺癌に広く使用される抗癌剤への耐性が増すことが判明した。さらに、その機序の一つとしてMcl-1の増加が重要な役割を果たしていることが示唆された。しかし、その機序は現時点で詳細不明である。TGF-βでアポトーシスの誘導される細胞があることを鑑みれば、細胞の運命を振り分ける何らかのシステムが存在すると考えられ、そのシグナル伝達の解明が新たな治療ターゲットになりうると期待できるが、まずは、Mcl-1の増加がどのレベルで制御されているのかを検証したい。さらに、Mcl-1を組み込んだpcDNA3.1をA549細胞へ導入し過剰発現を行うことで、実際にシスプラチンへの耐性が増強することを確認する。 ②抗癌剤耐性を獲得した癌細胞における上皮間葉転換とアポトーシス制御の解析:A549細胞をcispaltin含有培地で長期間培養(8か月)することで、cispaltinに対して一定の耐性を示すA549細胞を作製した。今後、上皮間葉転換との関連やアポトーシス制御の変化について調べる予定である。 ③肺癌患者におけるBcl2 familyの発現と予後について:肺癌切除術後症例を対象に抗アポトーシス作用を持つBcl-2 familyの発現と術後補助化学療法後の生存率について調査を行うため、現在、臨床試験に向けて準備中である。 ④上皮間葉転換に伴う抗癌剤耐性の効率的な阻害について:A549細胞では、Mcl-1をターゲットに含むBcl-2阻害薬を併用することで、上皮間葉転換に伴うシスプラチン耐性に打ち勝つことが判明した。今後、Mcl-1を制御する機序の解明をめざし、そのシグナル伝達経路の阻害が新たな治療ターゲットとなりうるか検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品の支出額が当初の予定より抑えられたため、次年度使用額が発生した。 当該助成金は本年度助成金と合わせて、全額、上記研究に使用される試薬(各種抗体、各種抗癌剤、siRNA、阻害剤)やプラスチック製品等の消耗品購入にあてられる予定である。
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