2012 Fiscal Year Research-status Report
オキサリプラチンによる遺伝子発現調節機構の解明と新規抗癌剤併用療法の研究開発
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24701028
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
清成 信一 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70570836)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | オキサリプラチン / 5-フルオロウラシル / 併用化学療法 / 大腸癌 |
Research Abstract |
シスプラチンに代表される白金系抗癌剤は様々な癌に対する化学療法に用いられている。進行・再発大腸癌に対する化学療法では、いわゆる第三世代型の白金系抗癌剤であるオキサリプラチンと5-フルオロウラシル(5-FU)の併用化学療法が標準治療の一つとされている。オキサリプラチンはDNA鎖間の架橋を形成することで癌細胞のDNA複製を阻害する。一方、5-FUの代謝物はチミジン三リン酸(dTTP)の生合成経路を阻害するとともに、デオキシウリジン三リン酸(dUTP)の蓄積を促進することで癌細胞の増殖を抑制する。このように異なる作用機序を有する抗癌剤を併用することで治療効果を高めているものと考えられるが、オキサリプラチンと5-FUの高い相乗効果を説明する詳細な分子機構は解明されていない。 研究代表者はオキサリプラチン処理によって遺伝子発現が低下することが知られているもののうち、前述のdUTPを分解する酵素であるデオキシウリジン三リン酸ジホスホリラーゼ(以下、dUTPase)に注目し、その遺伝子発現調節の分子機構と5-FUとの併用効果について検討を行った。 申請書に記述したとおり、オキサリプラチンと同じ白金系抗癌剤であるシスプラチンやカルボプラチンで大腸癌細胞株を処理した場合にはdUTPaseの遺伝子発現低下は観察されなかった。まず、この現象を誘起する白金系抗癌剤の構造因子を探るべく、研究用試薬の白金系化合物を用いて同様の実験を行ったが、これまでのところオキサリプラチンと同様の活性を有するものは見いだされていない。細胞側の因子としてはDNA修復系蛋白質の変異との関係性は見られず、癌抑制遺伝子であるp53が正常型であることが本現象において重要であることが明らかとなった。また、大腸癌細胞株においてオキサリプラチンを前処理することで5-FUの細胞増殖阻害活性が増強されることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書で計画した初年度の研究計画を達成している。具体的には臨床で用いられている白金系抗癌剤三種類と入手可能な研究用試薬であるシスプラチン類縁体四種類について試験が完了し、本現象がオキサリプラチンでのみ観察されることを見いだした。また、大腸癌細胞株と正常繊維芽細胞株を合わせて十種類程度について試験を行い、大腸癌細胞株に特徴的なミスマッチ修復経路の欠損の有無は本現象を誘起する上で関係が無く、癌抑制遺伝子であるp53が正常型であることのみが必要だということを明らかにした。既に二年次目の研究課題であるオキサリプラチンによるdUTPase遺伝子発現抑制の分子機構解析に着手している。代表的な白金系抗癌剤であるシスプラチンを対照薬としてオキサリプラチンに特徴的なDNA損傷応答シグナル経路の解明を行っている。なかでもp53の翻訳後修飾に伴う安定化と、その転写制御支配下にある遺伝子群の機能解析を中心に研究が順調に進んでおり、本現象の分子機構を解明するための作業仮説の構築に至っている。また、dUTPaseと同様にオキサリプラチンによってのみ遺伝子発現が低下するDNA複製、修復関連因子も複数同定しており、今後の分子機構解析と応用研究を進める上で有用な情報を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はオキサリプラチンの作用によってdUTPaseの遺伝子発現が低下することで5-FUの薬効が増強される分子機構の完全解明を目指す。オキサリプラチンはDNA損傷作用を有することで癌細胞のDNA複製を阻害するが、それ故に副作用として正常細胞への毒性を引き起こすことが実臨床で問題となっている。本研究ではオキサリプラチンによるdUTPase遺伝子の発現抑制が5-FUの薬効を高める一因であると捉えており、将来的にこの遺伝子発現抑制にかかわるシグナル分子の機能を低分子有機化合物で調節することによって低毒性の5-FUの薬効増強剤を開発するための学術的基盤を創出することを最終目標としている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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