2012 Fiscal Year Research-status Report
新規PCB汚染源の解明と定量的評価方法の確立に関する研究
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24710016
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Research Institution | Hokkaido Research Organization |
Principal Investigator |
姉崎 克典 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, その他部局等, 研究員 (20442634)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 顔料 / PCB / ペンタクロロベンゼン / ヘキサクロロベンゼン / 副生成 |
Research Abstract |
日本国内で使用されている油絵具を含む有機顔料を分析した。本課題では高分解能ガスクロマトグラフ/高分解能質量分析計と内標準物質(サロゲート)を用いて、PCBの各コンジェナー別に良い回収率で精確に分析することを目標とした。最終的に確立した前処理手法は、①硫酸処理により顔料の着色分を除く、②多層シリカゲルカラムクロマト処理により、夾雑有機分を完全除去する、③スルホキシドカラムと銀イオンカラムにより、残留する油分及び硫黄分を除去する、ことである。留意することは①では顔料を直接硫酸に溶解させるのではなく、ヘキサンに分散させてから硫酸で処理する、②では1塩素化体の回収率向上のため硝酸銀シリカゲルは使用しない、③油分を効果的に除去する、である。この前処理方法によるサロゲートの回収率は1塩素化体及びクロロベンゼンを除き70%以上を常に確保し、精確な定量値を得ることが可能であった。 国内で入手した顔料中のPCB、PeCBz及びHxCBzの濃度及び異性体組成を検討した。PCB濃度レベルは0.0070~740mg/kgであった。フタロシアニンタイプからはPeCBzやHxCBzも検出され、それぞれ0.0035~75mg/kgだった。アゾタイプでは3,3’-ジクロロベンジジンから合成された顔料でPCB-11が、2,2’,5,5’-テトラクロロベンジジンから合成された顔料でPCB-52が主要コンジェナーとして検出され、原料由来の影響が示唆された。また、各ベンジジンのアミノ基が塩素に置換した構造を有したPCBも検出された。フタロシアニンタイプではフタロシアニングリーン(PG)からDeCBやPeCBz及びHxCBzが検出された。フタロシアニンブルー(PB)からはこれらのPOPsは検出されなかったことから、PBを塩素化してPGを得る段階でこれらのPOPsが副生成していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
検討した顔料のPOPs分析方法による各サロゲートの回収率は一塩素化ビフェニルとクロロベンゼン類では40~70%であったが、その他の同族体では50~120%の範囲内であり、また、質量分析におけるロックマス変動や落ち込みも認められなかった。現在、顔料中のPCBの分析は精確な濃度やパターンの把握が困難な電子捕獲検出器を用いる方法が一般的であるが、本研究で検討した方法は、高感度、高精度に定量することが可能であることが確認され、各種の顔料におけるPOPs汚染を定量的に把握することが可能となった。 日本国内で市販されている計5社の顔料(油絵具)計46種について分析を進めた。アゾタイプではPCB濃度レベルは0.0070~740mg/kgであり、うち2種がストックホルム条約で移動を規制される50mg/kgを超過しており、高濃度に汚染されている顔料の存在が確認された。アゾタイプでは原料に由来すると推測されるPCB-11やPCB-52が高濃度に含まれている例が多数あり、また、DLPCBの一部も副生成していることが確認された。フタロシアニンタイプではPCBs、PeCBz、HxCBzの濃度レベルはそれぞれ0.011~2.5mg/kg、0.0035~8.4mg/kg、0.027~75mg/kgだった。特にフタロシアニングリーン(PG)では高塩素化体であるPCB-209やPeCBzやHxCBzが高濃度に含まれており、PGの合成中に副生成していることが示唆された。また、多環式顔料であるPR254とPV23からもPCBsが検出され、それぞれ2.3mg/kg、1.5mg/kgだった。これらはそれぞれ原料に由来すると考えられる特異的なコンジェナーパターンを示しており、顔料のPCB汚染を検討する上で重要な知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.統計解析への適用:系統化された顔料のPCB異性体パターンを主成分分析等により従来から汚染源として考慮されているカネクロールや燃焼由来のパターン特徴と照らし合わせ、統計的に特徴を把握する。具体的には全ての異性体を解析に用いることは精度を落とす要因となることから、説明変数として用いる異性体を選別し、その数値を規格化する方法について文献(橋本:環境化学、14、263-286(2004))を参考に検討する。これをケミカルマスバランス法(柏木ら:応用統計学、31、59-74(2002))やベイズ型重回帰モデル(柏木ら:Environmetrics, 15,777-796(2004))に適用し、カネクロール、燃焼、そして顔料由来を考慮した環境中のPCBs汚染源推定プログラムを開発する。また、未知の汚染源に対応させるため、想定した汚染源で説明できない割合を明示的に推定する方法についても検討する。検討にあたっては、私が以前に行った研究(姉崎ら:分析化学、56、639-648(2007))を参考とするほか、上記モデルを作成した統計数理研究所の柏木宜久氏に適時助言や技術提供を求めつつ実施する。 2.推定プログラムの妥当性確認と環境中のPCBs汚染源の調査:開発推定プログラムを環境試料(大気、水、底質他)のPCBsに適用し、解析結果の妥当性評価(多重共線性の評価、各種指数を用いた適合度評価、主要汚染源であるカネクロールとの関連性の検討)を行う。それに伴い、北海道における代表的な環境試料のPCBs汚染源推定を行い、特に顔料由来の比率を定量的に評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.有機顔料中のPOPs分析:前年度の検討の結果、これまでPCB汚染が指摘されていたアゾタイプ及びフタロシアニンタイプの他に多環式顔料にも含まれていることが明らかとなった。多環式顔料については、筆者も含めほとんど検討がなされておらず、その汚染経路や実態について不明な点が多い。このことから、多環式顔料中のPOPsについても検討を進める。この他、環境試料における顔料由来のPCB汚染の実態を把握することから、大気、水、底質、土壌などの分析を進め。これらの分析費として68万円を計上する。 2.環境中の顔料由来成分の動態評価及び学会での発表:顔料に特異的に由来するPCB成分の環境試料中の動態について、フィールド調査を行う。基本的に環境大気、土壌、底質のサンプルをいくつか採取して評価する。また、前年度に得られた知見について、環境化学討論会(東京、府中市)又はダイオキシン学会(韓国、大邱市)において発表を行い、学識研究者らと意見交換を行う予定である。これらの旅費及び参加費として32万円計上する。 3.学術誌への投稿 前年度に得られた知見について、査読付き英文誌への投稿を計画する。投稿にあたって英文の校正を必要とすることから、この費用として10万円計上する。
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Research Products
(2 results)