2012 Fiscal Year Research-status Report
ワカメの安定同位体比・微量元素組成による東日本大震災の三陸沿岸生態系への影響解析
Project/Area Number |
24710018
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
Principal Investigator |
鈴木 彌生子 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品総合研究所・食品分析研究領域, 研究員 (00515059)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 安定同位体比 / 微量元素組成 / ワカメ |
Research Abstract |
一般的に、水界生態系において、一次生産者の炭素・窒素同位体比は、生育環境中の栄養塩の濃度やそれらの炭素・窒素同位体比、光合成時の環境(成長速度)などの影響を反映する。とくに、沿岸域の一次生産者の安定同位体比は、河川などによって流入する陸由来の有機物や人間活動由来の有機物の影響を受けやすい。よって、固着性の藻類であるワカメの炭素・窒素同位体比は、その生育環境を反映し、変動すると考えられる。今年度は、日本の食材としても価値の高いワカメについて、震災前に収集した試料について、炭素・窒素同位体比の比較に加えて、微量元素組成についても比較を行った。 試料は、三陸・鳴門・中国および韓国において、2011年に素姓の明確な試料を採取した。各検体は、オーブンにて乾燥後、ミルにて粉砕した。粉砕試料を元素分析計‐質量分析計(EA-IRMS)を用いて炭素・窒素同位体比を測定した。また、粉砕試料をマイクロウェブにより湿式分解後、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いて、12元素(Mg・P・Ca・V・Mn・Fe・Zn・As・Rb・Sr・Cd・Ba)を測定した。 鳴門産の窒素同位体比は10.8±1.5‰(平均値±標準偏差)となり、三陸産(0.6±1.9‰)・韓国産(1.2±1.7‰)・中国産(1.7±1.9‰)よりも有意に高い傾向が得られた。瀬戸内海では,陸域からの人間活動由来の窒素同位体比の高い有機物が海域の食物連鎖に大きく寄与している可能性が報告されている。よって、鳴門産の窒素同位体比が有意に高い値を示すのは、瀬戸内海へ流入する陸域からの人間活動由来有機物が海域の食物連鎖に大きく寄与していると示唆される.また、12元素の組成を比較した結果、中国産については特徴的な傾向が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の計画としては、(1)入手済みの震災前試料の安定同位体比および微量元素組成分析(2)三陸・鳴門を中心とする浜単位で素姓の明確な試料の収集(震災後の試料)(3)震災後試料の安定同位体比および微量元素組成分析、についてを挙げていた。 分析手法については、すでに確立済みであったことから、準備研究で確立した条件を用い、震災前に入手した試料の安定同位体比および微量元素組成の分析を行った。収集済みの震災前試料については分析が完了しており、すでに分析結果を国内学会にて発表済みである。震災後の試料についても計画通りに三陸・鳴門・中国・韓国で入手し、震災前後での環境影響評価が可能な状況が整った。今年度は、主に震災前の試料の分析が主であったため、震災前後での評価に至っていないが、震災後の試料についても順調に分析を進めているところであり、来年度は年変動も含め、学会発表を予定している。 以上より、全体を通して、計画通りに進展していると判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度の計画としては、当初の計画通り、(1)三陸・鳴門を中心とする浜単位で素姓の明確な試料の収集(震災後の試料)(2)震災後試料の安定同位体比および微量元素組成分析(3)データの数理解析(震災前と震災後3 年間の経年変化を追跡)、について研究を進める。 引き続き、経年変化を検証するために、三陸・鳴門を中心とする浜単位で素姓の明確な試料の収集(震災後の試料)を行うとともに、収集した震災後のワカメ試料について、炭素・窒素・酸素・硫黄安定同位体比および微量元素組成分析を行う。震災前後での比較については、震災前のワカメ試料は、各元素の安定同位体比および微量元素組成は分析済みであり、来年度は震災後の試料の分析結果をまとめ、震災前後での変動を検証する。また、ワカメの微量元素組成については、産地判別の観点からの報告があることから、それらの数値の情報も収集し、震災から複数年前のデータについても比較を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費としては、主に安定同位体比および微量元素組成を分析するための消耗品費が大半を占めている。安定同位体比分析としては、標準物質、燃焼炉、還元炉、試薬、銀および錫カプセルが中心となる。微量元素組成分析としては、標準物質、試薬(硝酸など)、アルゴンガスが中心となる。試料数が200試料を予定しており、数が多いことから、効率的に計画を進めるために、前処理について実験補助員を雇うため、人件費を予定している。また、今年度は震災前後での安定同位体比および微量元素組成の変動について国際学会(イギリス)および国内学会(広島)にて発表を予定しており、学会参加費および旅費を予定している。
|