2012 Fiscal Year Research-status Report
流域圏における難分解性化学物質の動態予測モデル構築に関する研究
Project/Area Number |
24710032
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐藤 圭輔 立命館大学, 理工学部, 講師 (30456694)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 放射性物質動態 / 流域モデル構築 / 夏井川流域調査 |
Research Abstract |
24年度の研究助成事業では,福島県夏井川流域の実測サンプリング調査を3回実施し,予定されていた種類別土壌,河川底質,河川水・湖水,および植生などの環境試料を採取した.これらの試料中に含まれる放射性セシウムを分析し,汚染の実態の解明と動態の長期予測を行った.その結果,当該流域のホットスポットでメガBq/kg程度の汚染が続いていること,事故後から現在までの汚染の経年変化(集積・移動),およびその原因として後背地の山頂汚染が流出滞水域部に移動していることなどを明らかにした.福島県小玉ダム管理所の協力を得て,ダム湖とその周辺および下流のため池についても調査も行い,これらの結果とAQUASCOPEモデルによる放射性物質の長期動態予測との比較検証を行った.モデルによる長期予測は,現状での濃度を概ね再現し,今後の継続的な調査でモデル予測の妥当性をさらに検証することが重要であると判断された.試料については凍結乾燥処理を行って保管し,現在継続的に濃度の測定を進めている. 一方,大気・流域流出モデル構築については既に情報整備が完了している琵琶湖流域(野洲川流域)において適用を行った.水文の再現性は十分であるが,本研究で対象としている放射性物質やダイオキシンの動態予測のため,懸濁物質の推定精度を高める必要があると判断された.同時に福島県の対象域においてモデルの試行に必要な環境情報(GISデータ)は24年度の事業にて概ね収集が完了した.現在は大気・流域流出モデルの適用に向けて,計算区画やパラメータの設定,検証のための観測情報の収集などを進めている段階である. これらの関連成果(ダイジェスト)は既に3件の学会発表を通じて行われるなど,研究の目的および研究実施計画に対して順調な進捗となっている.今後は,分析作業の実施やモデルの構築で継続的に研究事業を行っていく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は現地広範囲における流域調査を伴っており,年3回(各4名程度を動員)の精力的な調査を行うなど当初の予定を超える頻度・規模で調査が行われている.現地情報の収集については,当初の予定通りに福島工業高等専門学校(原田教授)の協力が得られている.放射性物質の分析のための前処理や定量実験(定量手法の検討)については,千葉工業大学(亀田氏)の協力も得られたことで,特に水中濃度の定量部分で予定よりも順調に進みつつある.放射性物質の動態モデルについては,世界の先行研究であるAQUASCOPEモデル(英,ポーツマス大学smith氏)の協力を得ることができ,既に結果も得ている点で当初の予定を上回る成果となっている.その他,流域流出モデルの構築も琵琶湖流域を対象とする作業では十分に進み,既に他流域への適用が可能になっている点で,予定をやや上回る成果となっている. 一方,本研究の対象物質の一つとしているダイオキシン類の分析についてはモデルによる予測が可能であるため,現状では一部の試料の分析にとどまっている.また,大気動態モデルについても,過年度の研究で適用実績があるものの24年度の事業ではモデル適用のため情報収集に徹した.そのため,成果とりまとめには至っていないが,これらの点は代表者にて既に実績を持っているため25年度の研究助成事業で実施可能と考えている. 以上の通り,当初の予定以上に成果が出ている部分と概ね予定通りに準備を進めている部分があるため,「(2)おおむね順調に進展している。」という自己評価を設定する.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)24年度の研究事業では,当初の予定を上回るサンプルを採取したため,25年度始めから精力的に前処理作業と分析実験を進めているものの,全ての試料の分析は終えていない.汚染実態を明らかにし動態メカニズムの推定に展開するためにも,院生らの協力によってまずはこの定量実験を優先して実施したい.特に低濃度の水中セシウムを定量するためには,当該物質を選択的に吸着可能なディスクの利用が必須であり,このための専用機器(圧送による強制通水装置)が利用される. (2)夏井川流域の調査予定としては,過年度と同様に本年度内に最大3回を予定する.事故後に継続的に調査を行ってきているため,動態の経時・経年変化を捉えるためにも本調査は必須であると考えている. (3)モデル構築の点では,計算に必要な気象情報やその加工のためのアプリケーションなど,最低限の経費執行とし,モデル構築の作業には時間をかけたい.夏井川流域の動態モデルを構築するため,まずは24年度の研究で得られたモデル設定(琵琶湖流域)を転用し,現地観測データとの検証によってパラメータを最適化する予定である. (4)研究開始2年目となり,これまでに得られた研究成果を広く公開するため,論文投稿,学会発表を予定する.具体的には,日本水環境学会,土木学会,IWA学会などでの研究成果発表を準備している.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)分析実験を進めるための消耗品類が調達される予定である.特に土壌分析を進めるための器具類やサンプル缶と水中放射性セシウムの吸着ディスク(ラドディスク)が十分に必要である.サンプルの調製や放射性分析の定量実験には長時間を要するため,ルーチン的な業務の一部は,本学院生らの協力得て実施するため,そのための謝金も設定する.これらの作業は前年度後半から実施しており,濃縮操作に時間がかかるため定量分析に必要な上記消耗品類や謝金の一部は25年度の予算として後ろ倒しに設定した. (2)福島県夏井川の現地調査を実施するため,調査出張旅費(4名/回×3回程度)を計上している.採水・採泥などの調査を並行して実施するため,安全上の観点からも複数名での調査が必須である.また,夏井川流域(750km2)の上流域各地を主な調査地点とし,調査機材やサンプルなどの輸送も必須のため,レンタカー関連経費の利用を予定している.25年度以降の調査を十分に行うため,24年度の調査出張経費の一部には別予算を活用し,24年度の本研究予算の利用を抑えた. (3)我が国のGISデータ(空間データ基盤など)の一部や気象データ(電子データ)は有償で提供されており,夏井川流域での流出解析にはこれを購入して利用する予定である. (4)本年度の日本水環境学会年会は東北大学(仙台市),土木学会全国大会は日本大学(習志野市),IWA ASPIREは韓国が予定されている.これらに関わる論文投稿料,参加費,旅費などを予定している.
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