2012 Fiscal Year Research-status Report
家畜伝染病防除のための消石灰散布が生態系に及ぼす影響
Project/Area Number |
24710034
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
森 美穂 近畿大学, 農学部, 講師 (70581031)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 消石灰 / 環境リスク / 家畜伝染病 |
Research Abstract |
屋外土壌の1 m四方の土地に各0, 300, 500および1000 g/m2の濃度になるように消石灰を1回のみ散布し、経時的に表面土壌と深さ5 cm土壌のサンプリングを行い、pH測定およびR2A寒天培地を用いた生菌数測定を行った。表面土壌と5 cm土壌のpHはともに、消石灰散布土壌が未散布土壌と比較して0.5~1程度高い値を示し、長期間(約8ヶ月)経過後も同様の差がみられた。生菌数測定の結果では、消石灰散布と未散布の間で各土壌中に存在する生菌数に差異は認められず、濃度による違いも見られなかった。農林水産省は消毒を行う際、500~1000 g/m2の濃度で消石灰を散布し、雨が降った際は再び散布し直すなど複数回散布するよう各自治体に通達している。そこで、単回消石灰散布場所とは別の2 m四方の土地に上記と同じ濃度で1週間ごとに繰り返して、計3回散布を行った。経時的にサンプリングした表面土壌と5 cm土壌は上記と同様の方法でpH測定および生菌数測定を行った。さらに、原子吸光光度計を用いて交換性陽イオン(Na, Mg, K, Ca)、吸光光度法により可給態リン酸およびアンモニア態窒素の測定も行った。複数回散布の場合でも単回散布の結果と同様に、表面土壌と5 cm土壌のpHはともに、消石灰散布土壌が未散布土壌と比較して2程度高い値を示した。生菌数測定結果も単回散布の結果と同様に、消石灰散布濃度による土壌中の生菌数に差異は認められなかった。交換性陽イオン濃度の比較では未散布と比べて、Na, Mg, Kに大きな変化は見られず、Caに関しては散布土壌で高い数値を示したが、総散布量との相関はなかった。これらの結果より、消石灰を散布することで土壌中の生菌数には影響を及ぼさないが、土壌はアルカリ性に傾き、Caが蓄積していることから、長期間経過後も元の環境に戻っていないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、屋外の土壌に消石灰を1回のみ散布する系で評価していく予定であったが、消石灰散布と未散布の間で生菌数に差が認められなかったことから、複数回繰り返し散布した系でも評価を行った。そのため、初年度に予定していた土壌微生物の菌株同定と消石灰による殺菌試験は遂行できなかったが、複数回散布で得られた結果は、より実際の家畜伝染病防除のために行われている散布に近い条件で評価できたと考えられる。 消石灰散布による土壌動物への影響調査は、散布前の各濃度域の土壌に生息していた生物数と生物種に大きなばらつきがみられたため、散布後に消石灰が及ぼす影響を正確に評価することができなかった。また、消石灰散布が微生物に及ぼす影響については培地上で生菌数のみ評価することができたが、形態によるコロニー間の差が著しくなかったため、菌叢変化までは確認することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
農林水産省が各自治体に通達している消石灰散布濃度内では濃度や散布方法の違いによる大きな差異は認められなかったので、今後の散布では濃度の設定数を少なくし、その代わりに各濃度におけるサンプリング数を増やすことで、データの精度を高めたい。次年度は特に消石灰散布による微生物の菌叢変化について明らかにするために、前半は散布する土壌の菌を生育させるために最も適した培地の選抜と土壌からの効率の良いDNA抽出方法の検討を行い、後半は16S rDNA塩基配列に基づいた解析を行う。また、前半に消石灰による土壌微生物に及ぼす影響を評価するために、in vitroにおける殺菌試験も行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年1月22日に出産したため、産後休暇と育児休暇(平成25年3月20日から)を取得している。そのため、初年度末に予定していた土壌からのDNA抽出に必要な試薬類を購入することができなかった。そのため次年度は、遺伝子レベルの解析を主に遂行していくために、土壌からのDNA抽出法の検討を最優先に行っていく予定である。土壌からのDNA抽出は、使用するキットや試薬類によってDNAの精度やPCRにおける増幅効率が大きく異なるため、前半に様々なキットや試薬類を購入し、最も適したDNA抽出方法を確立する予定である。その際に、必要であれば細胞破砕の効率をあげるためのビーズ破砕機を購入する。抽出したDNAは当初の予定通り、PCR-DGGE法によって解析する。
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