2012 Fiscal Year Research-status Report
南極の海洋生態系の保全のための国際協力:制度間の相互作用とその調整
Project/Area Number |
24710050
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
大久保 彩子 東海大学, 海洋学部, 講師 (40466868)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際制度 / 南極海 / 制度間相互作用 / 環境政策 / 海洋政策 / 海洋生物資源 |
Research Abstract |
南極海の海洋生態系の保全と利用にかかわる国際制度の相互作用を明らかにするために、各制度のもとで採択された管理措置、決議、勧告等の交渉過程について、意思決定機関の議事録等の記載内容を基礎とした分析を行った。国際協調のもとでの海域管理という点で国際レベルおよび国レベルで重要な政策的課題を含むケースを特定し、分析を行った。南極海の環境と資源を扱う数多くの国際制度のうち、南極条約、南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)、国際捕鯨委員会(IWC)、国際海事機関(IMO)、国連海洋法条約(UNCLOS)の間で生じてきた相互作用とアクターの対応について検討した。各機関の公式文書のサーベイに加え、IWCについては年次会合にオブザーバーとして出席し、各国の交渉態度を実態に即して把握することができた。 理論的側面に関しては、国際関係論のレジーム研究の分野において提唱されてきた諸概念(レジーム複合体、フォーラム・ショッピング、制度間相互作用、制度の断片化など)についてレビューした上で、相互作用の管理(Interplay Management)の分析枠組みを用いて、いくつかの具体的事例を対象に制度間の不整合や齟齬に対するアクターの調整行動を分析した。そうした分析結果の一部は国内外の学会にて報告した。 国際制度の相互作用を扱う概念枠組みとしては従来、アクターが自らの利益を追求する戦略的行動に着目した概念が多く提案され、事例研究が行われてきたが、本研究は制度の実効性の低下や関係国の対立強化を回避しようとするアクターの行動を分析するものであり、今後も分析枠組みの改良と事例分析の蓄積を図ることで、制度間の相乗効果を強化し悪影響を回避するための方策を検討するために有用な知見を構築することが可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料収集(諸条約の年次会合や議事録、二次文献など)に関しては、当初予定していた南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)、国際捕鯨委員会(IWC)に加えて、次年度の重点的な分析対象としていた国際海事機関(IMO)に関しても一部の資料を収集・整理し、予備的分析に用いた。参与観察に関しては、計画通りIWC年次会議にオブザーバーとして出席し、各関係国の利害関心及び交渉ポジションについて直接的に知見を得ることができた。 一方で、当該年度に予定していたCCAMLR事務局における資料収集に関しては、特に漁獲関連データは商業的要素が高いとされ機密扱いされているケースが多く、そうした資料の自由な閲覧は困難であることが判明した。そのため、CCAMLRの国際交渉に関する情報収集は関係者へのインタビューで補うこととした。効果的なインタビュー調査を行うためには既に収集した資料を十分に活用し、質問内容についても精査しておく必要があることから、インタビュー調査は次年度に実施することとした。 制度間の相互作用の把握と予備的な分析に関しては、既存研究で提示された相互作用の管理の分析枠組みを具体的事例に適用した。同枠組みは管理のレベルや形態という点で有用であることが確認された一方で、制度の有効性への影響を実態に即して把握するためには同枠組みのさらなる改良が必要であるという課題が特定された。 以上のように、本研究は一部において当初計画以上に進んでいるが、一方で次年度に持ち越さざるを得なかった項目も一部あることから、研究全体としての達成度は概ね順調と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに収集した資料を精査しつつ追加的な文献調査を行い、また予備的な分析を踏まえ、制度間の相互作用について詳細なプロセストレーシングによりその特徴を把握するとともに、アクターの行動に着目した分析を進めていく。理論的側面に関しては、現在のところ既存の分析枠組みを援用しているが、特に制度の有効性研究との連結を視野に入れて枠組みの改善を図る予定である。 研究を遂行する上の課題として、南極条約体制の諸制度は政府間交渉の参与観察が困難であり、また機密扱いとされる情報が比較的多いことが判明したため、関係者へのインタビュー調査等で補うこととする。また、研究を進める中で、制度間の相互作用の調整においては国家アクターのみならず、非政府組織や産業団体などの非国家アクターが重要な役割を果たしている可能性が示唆されたため、そうした諸アクターの行動及びその要因にも注目して文献調査とインタビュー調査を実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画においては、南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)事務局における資料収集を予定していたが、研究を進めていく中で、同事務局が保有する資料は特に漁業関連データの商業性という点から機密扱いとされるケースが多いことが判明した。そのため、関係者へのインタビュー調査で関連情報を収集し分析することとした。効果的なインタビュー調査のためには、これまでに収集した資料の分析と質問表の精査が非常に重要であることから、同インタビュー調査は次年度に行うこととした。以上の理由から、次年度に使用する研究費が生じた。 したがって、次年度においては当初計画していた資料収集及びプロセストレーシングによる詳細分析に加え、CCCAMLRの国際交渉の関係者へのインタビュー調査を行う予定である。
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Research Products
(3 results)