2013 Fiscal Year Research-status Report
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24710055
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松永 光平 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科, 特任講師 (80548214)
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Keywords | 国際研究者交流 / 中国 / アジア地域研究 / アジア食料安全保障 / 未来可能性 / 農村 / 代替産業 / 退耕還林 |
Research Abstract |
現地の廟会(道教寺院)が招聘した専門家の指導により緑化が推進され、一定の成果を収めたとされる陝西省楡林周辺において、森林回復状況と環境・人口の変化に関して現地調査を行った。今年度の調査は二回にわたって行った。 一回目は平成25年6月に、楡林市靖辺県周辺で行った。国内外に著名な統万城遺跡を活用した、農業から観光業への産業転換の可能性について評価を行った。現地では、緑化による環境保全に進展が見られたが、遺跡の周囲から住民がいなくなっていた。遺跡の整備事業も省や県などの行政機関が主導したものであり、周辺農村の住民の関与は限られているようであった。したがって、現時点では、遺跡を活用した観光業は、ポスト退耕還林における農村の未来可能性を担保するには至らないと思われた。 二回目は、同年8月に楡林市米脂県周辺で行った。森林回復状況に関して、以下の三点から、緑化の目標とされている土砂の流出や洪水の抑制はおおむね達成されていると思われた:(1)傾斜地での森林植生は順調に回復していた、(2)崩壊など土砂災害の跡地も目につかなかった、(3)現地を流れる河川の本流付近の河川敷でも草が生えていた。 一方人口に関して、調査対象農村の一つY村で小学校が廃校となるなど、高齢者以外の世代の流出が顕著であった。一方、米脂県の経済活動の中心地のひとつとなっているZ鎮では、鎮の市街地周辺の農村では、寺院を中心とした人的ネットワークが保存されており、従来の農業に代わる産業(代替産業)として観光業を活性化していくなどの意欲が語られた。 以上から、森林回復による環境保全と合わせて、収入源へのアクセスのしやすさや、人的ネットワークの中心となる施設などの諸条件が、ポスト退耕還林を見据えた代替産業振興の基盤となり、さらには農村の未来可能性の担保へとつながるものと思われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り、楡林での調査を実施できたため、おおむね順調に進展していると評価できる。研究成果の一部をもとに単著・共著の著書を発刊でき、社会還元も順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
農村の未来可能性を担保する代替産業育成にあたっては、現地政府の政策よりも、収入源や集客力ある施設の有無、住民自身の志向が大きく影響すると考えられ、今後、現地政府の政策、地域の状況、住民の志向のそれぞれがどのように代替産業の成否につながるのかを評価していくことが必要である。平成26年度以降の調査においては、その点に留意していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以下の二つの理由により、次年度使用額が生じた。第一に、当初の計画通り、計二回の現地調査を行うことができたが、それぞれの調査について、日程を十分に確保することができなかった。第二に、調査補助者との日程調整がうまくいかず、当初計画していた延安付近での調査ができなかった。 平成26年度は夏季休暇や冬期休暇などに、時間をかけて現地調査を行う予定であり、次年度使用額はそのための旅費に充当したい。日程調整を綿密に行い、可能な限り時間を確保する。
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