2013 Fiscal Year Research-status Report
放射線照射による脳機能障害の発生機序と防御機構の解明
Project/Area Number |
24710060
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
秋本 頼子 九州大学, 生体防御医学研究所, 非常勤研究員 (50613254)
|
Keywords | 修飾ヌクレオシド / X線 / UV |
Research Abstract |
昨年度の計画に基づき、ラジカルにより発生した損傷ヌクレオシドと脳機能障害発生のメカニズムを総合的に明らかにするためにトリプルトランスジェニック(3xTg)アルツハイマー病モデルマウスを用いて大脳皮質および海馬核DNA中の8-oxo-dGuo、8-oxo-dAdoの定量をLC-MS/MS法を用いて行った。その結果、加齢に伴い8-oxo-dGuoの蓄積量は上昇するがnon-Tgマウスと3xTgホモマウスの間で有意な差はないことが明らかになった。8-oxo-dAdoに関しては検出限界以下であったため定量はできなかった。また、プリンヌクレオシドへのUV照射の影響を明らかにするためにUV-A,B,Cの照射をアデノシンおよびグアノシンに対して行ったところ、X線照射の結果と同様にアデノシンの酸化修飾体である8-oxo-Adoの生成量が顕著に上昇し、その量はUV-C,UV-B,UV-Aの順で多かった。また2-OH-AdoのUVによる生成も確認できたが、その量は8-oxo-Adoに対してUV-Aで約1/100, UV-Bで約1/150, UV-Cで約1/60とかなり少なかった(200 kJ/m2照射の場合)。グアノシンの場合には8-oxo-Guoの生成はUV-C, UV-B, UV-Aの順で多くなることが確認できたが、全体的な生成量は非常に少ないということが分かった。 X線照射によって生成する様々な損傷ヌクレオシドを同定するためにマトリックス支援レーザー脱イオン化法を用いた飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)を用いることにし、分析の最適条件の確立を行った。ヌクレオシドの分析にはマトリックスとしてα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)を用いてThin-layer法による分析を行うことが最適であるということが確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はDNA修復酵素、修飾ヌクレオチド分解酵素を欠損あるいは過剰発現した遺伝子改変マウスを用いて、頭部X線照射後の長期的な影響(照射1ヶ月後)についての行動学的解析および病理学的解析を実施する予定であった。昨年度に実施した行動実験の結果からnucleotide-triphosphatase, 8-oxo-guanine DNA glycosylase二重欠損マウスにおいて頭部X線照射1ヶ月後の短期記憶が減少することは明らかになっていたが、照射後どの段階において顕著に修飾ヌクレオシドの蓄積が見られるかについては不明で、本研究で用いる遺伝子改変マウスでは加齢によっても8-oxo-dGuoの蓄積と行動への影響が見られるので、照射による修飾ヌクレオシドの生成と蓄積により最も行動に影響が与えられる時期を明らかにする必要があった。またヌクレオシド溶液を用いた研究から想定以上に多くの修飾ヌクレオシドがX線照射によって生成されることが明らかとなったのでin vitroシステムを用いた解析を主に進めることにした。分子量の決定のためにMALDI-TOF MSを用いることにしてヌクレオシド解析の最適条件の確立と準備を行った。またより詳細な解析のために照射に用いるプリンヌクレオシドの精製を行うなどした。 さらに当初計画していた研究目的だけではなく、より広範な知見を得るためにアルツハイマーモデルマウス(脳機能障害と加齢と修飾ヌクレオシドの関係について明らかにする)、ヌクレオシドへのUV照射(X線以外の放射線による損傷について明らかにする)等の研究を新たに行った。 サンプルやマウスの準備は出来ているもののX線照射による脳機能障害の解析については十分に実施出来ていない。しかし当初の研究目的とは違った方向へ研究が発展し今後の研究推進に役立つ結果が得られた。以上の理由からやや遅れているという評価とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
X線により生成した未同定の修飾ヌクレオシドの解析をMALDI-TOF MSを用いて行う。X線をヌクレオシド溶液に照射して放射線線量依存的な変化が見られた物質についてHPLC-PDAを用いてピークの分取、精製を行いこれをMALDI-TOF MSで分析して分子量についての情報を得る。分子量とスペクトルの形状などの情報から未知のピークの同定を行う。放射線照射に用いるヌクレオシドは照射前にあらかじめ精製しておき、X線照射によって増加する物質についてより正確に明らかにする。 放射線照射にる修飾ヌクレオシドの生成と蓄積が脳機能障害へ与える影響について明らかにするためには、照射後のラジカルによる修飾ヌクレオシドの生成が活発に行われる時期を明らかにする必要がある。そのため遺伝子改変マウス胎仔由来線維芽細胞株(MEF)を用いてX線照射実験を行い、LC-MS/MS法による修飾ヌクレオシドの分析を行う。8-oxo-guanine DNA glycosylase欠損MEFとヒトnucleotide-triphosphatase過剰発現MEFとそれぞれの野生型、コントロールを用いてX線照射後の時間と修飾ヌクレオシドの蓄積に関する知見を得る。その情報をもとにしてマウス脳内における修飾ヌクレオシドの蓄積と各種神経細胞マーカーの発現の変化について明らかにする。基本的な運動機能の解析と学習・記憶行動について行動学的解析も合わせて行う。もし行動学的な影響が照射後の修飾ヌクレオシドの蓄積からかなり遅れて出てくるなど本研究の実施予定期間内に結果が得られなかった場合にも、X線照射後の修飾ヌクレオシドの生成・蓄積による神経幹細胞や神経前駆細胞DNA損傷と細胞死のメカニズムについて明らかにすることができると考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は主にマウスを用いた解析を行う計画にしていたが、研究内容の進行具合からin vitroの実験を主に行うことになった。生体サンプルの場合には頻繁に交換が必要であるため当初大量に使用予定であったLC-MS/MS分析用のカラム、DNAサンプル調製用キットや抗体など購入単価の比較的高額な物品の購入は見送った。研究の実施には前年度までに購入済みであったものを使用した。また成果発表の学会についても参加を見送ったり(国内1回)、参加費用のかからないシンポジウムに参加するなどしたため当初予定していた額を下回った。 国内旅費として学会等での成果発表(2回)の出張旅費、国外旅費として成果発表(1回)の出張旅費として計70万円の使用を計画している。試薬(一般試薬、抗体、MALDI-TOF MS、LC-MS/MS・HPLC分析試薬等)、キット(DNAサンプル調製用)として70万円の使用を計画している。さらにLC-MS/MSおよびHPLCでは分析のためにカラムやガードカラム等を定期的に交換する必要があるので40万円の使用を計画している。 また各種の生化学反応やサンプル調製にプラスチック製のピペットチップ、バイアル、フィルター付き遠心チューブ等が不可欠であることからその費用として40万円、マウス飼料と戻し交配および実験用野生型マウスとしてC57BL/6J系統の購入のために20万円の使用を計画している。
|