2014 Fiscal Year Research-status Report
放射線照射による脳機能障害の発生機序と防御機構の解明
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24710060
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
秋本 頼子 九州大学, 生体防御医学研究所, 研究員 (50613254)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 放射線生物影響 / 修飾ヌクレオチド / X線 |
Outline of Annual Research Achievements |
X線照射の生物学的影響について、修飾ヌクレオシドの生成とヌクレオチドプールの恒常性の破綻という点に着目して研究を行った。X線照射後の修飾ヌクレオシドの生成とその特徴については未解明な点が多い。生体内の除去修復システムを利用した生体防御についての知見を得るために本研究は重要である。 HPLCにより分取、精製したアデノシン(Ado), デオキシリボアデノシン(dAdo), グアノシン(Guo), デオキシリボグアノシン(dGuo)にX線を照射し、生成する修飾ヌクレオシドの定量的解析をHPLC-MS/MSにより行った。その結果、8oxo-(d)Ado, 2OH-(d)Ado, (d)Inoの順で修飾ヌクレオシドが生成した。8oxo-(d)Adoの収量は100 uMの水溶液, 100 Gy照射時に1%であった。硫酸銅水溶液およびアスコルビン酸存在下において過酸化水素に(d)Adoを暴露した場合の収量は0.3 %程度であったので、化学的な処理よりもX線照射によってより多くの8oxo-(d)Adoが生成するということが明らかになった。 一方、8oxo-(d)Guoの収量は5~20 Gy照射の場合には線量依存的に増加するものの、高線量では収量の低下が見られた。この結果から8oxo-(d)Guoは一旦生成された後、X線によってさらに分解されるということがわかった。8oxo-(d)Guo水溶液へのX線照射により生成する修飾ヌクレオシドと、(d)GuoへのX線照射によって生成する修飾ヌクレオシドの検出時間およびUVスペクトラムの一致するピークが検出されたことから、今後MULDI-TOF MSを用いた解析により分子量の情報を得て構造の同定を行う予定である。 X線照射したヒト線維芽細胞からヌクレオチドプールを抽出し、LC-MS/MSを用いて修飾ヌクレオシドの分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では損傷ヌクレオチド修復関連遺伝子改変マウスを用いた研究を行う予定であったが、これらのマウスでは遺伝子改変によって行動へ与えられる影響が大きかった。無処理マウスにおいて遺伝子改変マウスと野生型マウスの間に特に不安様行動における差異があり、学習記憶行動においてもその要素が影響する可能性が高いと考えられた。そのため行動解析実験による放射線生物影響の解析の予定を変更し、ヌクレオシド水溶液および培養細胞へのX線照射によって生成する修飾ヌクレオシドの生成とその特徴について明らかにすることを重点的に行うこととした。本年度は培養細胞の準備や実験条件の検討を行ったために計画変更後の達成度はやや遅れるということになった。 また、前年度より引き続き行っているMALDI-TOF MSを用いた未同定の修飾ヌクレオシドの解析については安定した結果を得るための分析条件を設定することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝子改変マウスを使用するとした当初の研究計画を変更し、ヌクレオシド水溶液および培養細胞を用いた研究を行うこととした。現在までに得られている結果から、8oxo-(d)GuoはX線照射によってさらに破壊されるということがわかった。今後は修飾ヌクレオシドへのX線照射によって生じる物質とHPLC-PDAやMALDI-TOF MSを用いた比較解析を実施し、X線によって生成する修飾ヌクレオシドの特徴について明らかにする。またこれらの修飾ヌクレオシドは水分子から発生したラジカルを介した間接効果により生じると考えられるがその点についてもさらに分析を行って明らかにする。 培養細胞へのX線照射によってヌクレオチドプール中に生成する修飾ヌクレオシドについてヌクレオシド水溶液や抽出DNA溶液への照射から得られた結果と比較する。培養細胞の場合には照射後の経過時間ごとにROSの産生と修飾ヌクレオシドの生成と蓄積が変化すると予想される。またROSの産生と修飾ヌクレオシドの生成との関連性についてもミトコンドリアにおけるROS産生を中心とした解析を行って放射線照射が与える影響について細胞レベルでの研究を行う。
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Causes of Carryover |
損傷ヌクレオチド修復関連遺伝子改変マウスを用いて頭部X線照射後の行動学的解析等を行い、26年度にその結果を基にしたヌクレオチド酸化修飾体投与を行う予定であったが、これらのマウスでは遺伝子改変による行動の影響が大きかったので、放射線照射の影響のより明確な解析のために計画を変更し、培養細胞を用いた定量的解析を新たに行うこととし準備を進めていたため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
このため、ヒト神経芽細胞や遺伝子改変マウス由来細胞を用いた活性酸素種(ROS)産生のライブイメージングと定量的解析およびヌクレオチドプール中の損傷ヌクレオシドの解析を次年度に行い、放射線生物影響の発生機序と防御機構について明らかにする。次年度使用額は、細胞培養関連試薬や物品、抗体とROS測定キット、LC-MS/MS分析の分析関連試薬や物品、ヌクレオチドプール抽出試薬等の購入経費に充てたい。また次年度後半には国内学会発表と成果をまとめた学術論文の投稿を予定している。
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Research Products
(1 results)