2013 Fiscal Year Research-status Report
放射線照射後の染色体転座形成および形成抑制の分子機構の解明
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24710063
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
山内 基弘 長崎大学, 先導生命科学研究支援センター, 助教 (60437910)
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Keywords | 染色体転座 / DNA二本鎖切断 / 近接 / 53BP1 / DNA-PK |
Research Abstract |
平成25年度の研究計画は「MMEJ関連因子および53BP1が「転座形成分子経路」を構成していることの証明」および「ATMおよびDNA-PKがこの「転座形成分子経路」を抑制していることの証明」であった。転座は2本の染色体にできたDNA二本鎖切断(DSB)が連結することによって形成されるため、2個のDSBが動いて近接することが転座形成の必要条件となる。本年度はまず、このDSB同士の近接を可視化できる実験系を樹立した。53BP1蛋白質はDSB部位に集積し、顕微鏡下で可視化できる、いわゆる「フォーカス」を形成する。そこで53BP1のフォーカス形成に必要な最小限の領域と蛍光蛋白質mCherryを連結した”mCherry-BP1-2”蛋白質を発現する正常ヒト線維芽細胞mCherry-BP1-2-BJ-hTERTを樹立した。これまでの研究で53BP1蛋白質の発現を抑制した細胞では放射線照射後の染色体転座の頻度が有意に減少するというデータが得られているので、この樹立した細胞を用いて、DSB同士の近接の頻度が53BP1発現抑制細胞で低下しているかどうかを検討した。その結果、53BP1発現抑制細胞におけるDSBの近接頻度はガンマ線照射2, 4時間後ではコントロールと比べ差がなかったが、照射8時間後では有意に低下していた。一方、転座頻度が上昇することが分かっているDNA-PKのサブユニットKU80のノックアウトマウス細胞では、DSBの近接頻度が有意に上昇していた。まとめると転座形成を促進している53BP1蛋白質はDSB同士の近接を促進し、転座形成を抑制しているKU80蛋白質はDSB同士の近接を抑制しているという結果が得られ、DSB近接が「転座形成分子経路」において重要なファクターであることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はMMEJ関連因子の中でも最も重要なCtIP蛋白質の発現を抑制し、放射線照射後の染色体転座の頻度を検討しようと試みた。しかしながら、CtIPをsiRNAで発現抑制した細胞では放射線を照射していないにもかかわらず、DNA二本鎖切断の増加および顕著な細胞増殖抑制が起こった。そのため、染色体標本作製に必要な分裂期の細胞を十分に集めることができず、未だ転座頻度のデータは得られていない。この問題に関しては現在、細胞内に部位特異的エンドヌクレアーゼを発現させて、間期の細胞でも転座を検出可能な系を樹立しようとしているところである。一方、53BP1およびDNA-PKに関しては当初の計画では想定していなかった新たな発見があった。本年度新たに樹立した系により、両蛋白質が転座形成の必要条件である「DSB同士の近接」の頻度を制御していることを明らかにした。これは未だ報告がない知見であり、CtIP蛋白質に関する実験の遅れを補ってあまりある成果と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる今年度も、引き続きMMEJ関連因子を発現抑制した際の転座頻度およびそれらの因子を複数発現抑制してエピスタシス解析を行うことを目標とする。しかしながらCtIPのように発現抑制すると細胞増殖が抑制されて分裂期細胞が回収できない可能性もあることから、部位特異的エンドヌクレアーゼを用いて間期細胞で転座を検出できる系の樹立も同時並行で行う予定である。本実験系ではゲノム内に複数のDNA二本鎖切断(DSB)を導入し、転座形成が起こったらPCR産物ができるという仕組みにする予定で、現在、部位特異的エンドヌクレアーゼを発現する細胞を作製中である。また本年度新たに開発した系により「DSB同士の近接」が転座形成に密接に関与していることを明らかにした。この現象はDSBが起こっているクロマチンの動きに起因していると考えられるので、クロマチンリモデリング因子やヒストン修飾因子などクロマチンの動きに関与している蛋白質とDSB同士の近接の関与を調べる計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の予算は69,937円、次年度へ繰り越すこととなった。これは当初、年度内に全額執行する予定であったが、購入予定だった試薬のより効果が高いバージョンが次年度に新発売するという情報を得たため、買い控えた。本試薬は繰り越した分の予算で平成26年度に購入する予定である。 最終年度となる平成26年度も、引き続きMMEJ関連因子を発現抑制した際の転座頻度およびそれらの因子を複数発現抑制してエピスタシス解析を行うことを目標とする。また部位特異的エンドヌクレアーゼを用いて間期細胞でPCRにて転座を検出できる系の樹立も同時並行で行う予定である。またクロマチンリモデリング因子やヒストン修飾因子などクロマチンの動きに関与している蛋白質とDSB同士の近接の関与を調べる計画である。平成26年度は上記の計画を遂行するため、PCRなど分子生物学的実験の関連試薬やsiRNAなどを中心に購入する計画である。
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Research Products
(2 results)