2013 Fiscal Year Research-status Report
胎児期被ばくマウスに生じる染色体異常の組織による違いの解明
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24710067
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Research Institution | Radiation Effects Research Foundation |
Principal Investigator |
濱崎 幹也 公益財団法人放射線影響研究所, 遺伝学部, 研究員 (80443597)
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Keywords | 放射線 / 胎児期被ばく / 染色体異常 / 甲状腺上皮細胞 / 造血幹細胞 |
Research Abstract |
胎内被ばくに起因した発がんのリスクを考察する際の基礎データとして、我々はこれまでに原爆胎内被爆者の末梢血リンパ球や胎児期に照射したマウス造血細胞では染色体異常(転座)がほとんど観察されないが、胎児期照射ラットの乳腺上皮細胞では血液細胞と異なり、被ばくの影響が母親と同様に残っていることを報告し、胎児期被ばくにより生じる転座の頻度が組織によって異なる可能性があることを示してきた。本研究で新たに行った胎児期に被ばくしたマウス甲状腺上皮細胞の実験では分析細胞数を昨年度から上積みし、最終的に1,000細胞以上の分析が完了した。胎児期に2Gy照射されたマウス(F群)では解析した1,155細胞中30個、以下同様に、2Gy照射された母親マウス(M群)では1,149細胞中39個、非照射コントロールマウス(C群)では1,007細胞中0個の転座を検出した。転座頻度はそれぞれF群2.6%、M群3.4%、C群0.0%となり、転座が観察されなかったC群に比べ、F群とM群はほぼ同程度の転座が観察された。この結果はラット乳腺上皮細胞の結果と類似しており、それ故に血液細胞と非血液細胞では胎児期被ばくの放射線感受性が異なる可能性があることがより明確になった。また胎児照射の時期をこれまで行っていた妊娠15.5日目(器官形成期後の胎生期)から妊娠7日目(器官形成期前)に変更した追加実験の結果(2/502 0.4%)は前述の結果(30/1,155 2.6%)と比べ頻度が異なったことから、マウス甲状腺上皮細胞の放射線感受性には被ばくの時期も密接に関わっていることも示唆された。また造血幹細胞におけるマウス胎児と成体との間における放射線感受性の違いを調べるために胎児、成体それぞれの造血幹細胞を培養し、培養中に照射したX線により誘発される染色体異常の頻度を両者で比較する実験を開始し、現在分析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度に完了する予定であったマウス甲状腺における胎児期被ばく実験の中で、より詳細な分析を行うために当初の予定より分析細胞数を大幅に増やし、また被ばくの時期を変更した追加実験等を行った。その結果平成25年度に実施予定であった造血幹細胞における放射線感受性を胎児、成体マウスで比較する実験の開始が遅れた。よって達成度はやや遅れていると考えている。しかし、マウス甲状腺の胎児期被ばくに関する染色体解析においては十分なデータを得ることが出来たと考えている。さらに造血幹細胞の放射線感受性についてももうすでに数回の実験を行っており、現在、染色体異常頻度の分析中である。近いうちに結果が得られる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は昨年度より開始したマウス胎児と成体の造血幹細胞における放射線感受性の違いをより詳細に追究していきたい。具体的には胎児、成体の培養造血幹細胞にX線を照射し、誘発する染色体異常を調査する実験のデータをまとめる。もし染色体異常頻度のデータだけで不十分ならば両者における造血コロニー形成能の比較や照射による細胞死の影響を観察するための細胞生存曲線の比較等も行う予定である。またマウス胎児、成体間の造血幹細胞集団における遺伝子発現レベルの比較をリアルタイムPCRを用いて行う。遺伝子発現に違いがあると考えているDNA修復、細胞周期、アポトーシスさらには造血幹細胞の骨髄への定着に関わる遺伝子等を絞り込んで解析を行う予定である。もし時間に余裕があるならば主要遺伝子を対象とした遺伝子発現マイクロアレイを使用して網羅的な分析をすることも視野に入れている。またこれまでに得られた研究結果を基に論文の作成も並行して行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の使用可能な助成金は物品費やその他の費用で全額使用したが預金利息が発生したため次年度使用額が生じた。 次年度に繰り越された助成金は次年度分と合わせて染色体解析のためのプローブの購入や遺伝子発現解析の必要な試薬等に使用する予定である。
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