2012 Fiscal Year Research-status Report
大気中でのエアロゾル表面解析を実現するイオン顕微分光法の開発
Project/Area Number |
24710097
|
Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
加田 渉 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 放射線高度利用施設部, 博士研究員 (60589117)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | イオンビーム誘起発光 / エアロゾル / 化学形態分析 / イオンマイクロビーム / 共益焦点系 / PIXE / イメージング |
Research Abstract |
個別のエアロゾル表面の化学的性質を非破壊的に分析・イメージングすることを目的として、イオンマイクロビーム誘起発光顕微分光分析(ILUMIS)装置の開発を行っている。計画初年度である今年度は、目的とする顕微分光装置の主要要素である顕微集光系と多波長同時分光装置を開発した。まず、近接両凸レンズを試料近傍の真空容器内部に配置して、イオンマイクロビームと焦点を共有する顕微集光系を開発した。この光学系で集光されたイオン誘起発光を光子レベルで分光するために、高分解能グレーティング素子を備えた多波長同時分光装置の開発も行った。顕微集光系と多波長同時分光装置の同時開発により、数個程度の光子であっても、イオン誘起発光を分光分析・イメージングすることが可能となった。 既知の化合物により構成された標準試料を利用し、開発した分析装置の波長校正を予め行った。次いで、大気中微粒子の分析を試みた。粒子中の化合物に対応した発光が個別粒子から計測される中で、一部の大気中微粒子からは、元素組成分布が均一な領域であっても、特定の有機物に固有の波長を持つILが局在することが観測された。これらの有機物は、微粒子中に微生物が存在した痕跡を示す代表的な化合物であることから、本実験結果はエアロゾル表面において有機物が固着した事実を示唆する可能性がある。これらの成果は、イオンマイクロビームに関する国際会議ICNMTA2012及びPIXEに関する国際会議PIXE2013に於いて発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
年度中期で参加した国際会議ICNMTA2012では、当該研究に対して、予想よりも多くの反響を得ることができた。この時に受けたアドバイスを元に光学装置の設計を修正し、予定していた顕微集光系と多波長同時分光装置を節約した予算で開発することができた。この顕微集光系に更に独自に盛り込んだアイディアが功を奏し、計画よりも高い感度と分解能を達成することができた。このアイディアと得られた成果について、年度末にブラジルで開催された国際会議PIXE2013において口頭発表した。この発表に対する反響は予想よりも大きく、同会議において座長を務めた研究者から、将来の国際会議への招待を受けるなど、高い評価が得られた。これらの成果を大切にしながら、次年度の研究開発につなげたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、計画通り主要な装置の開発までを達成することができた。次年度は、本装置で得られたデータを利用して、信号処理に必要なソフトウェアの開発を進める予定である。他方で、金沢大学や産業技術総合研究所など国内の環境科学分野の研究者とも、本研究で得られた実験結果について議論することができた。特に、一部の大気中微粒子試料から得られた微生物痕跡に特有の発光は、エアロゾル表面の有機物固着を示すことが確かであれば、エアロゾル研究において非常に大きな意義を持つ。金沢大学の研究者とこの点についてより議論を深め、データを検証してゆくことで、実際のバイオエアロゾルの挙動解明に本手法がどの程度有効であるかを実証する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度予算の繰り越しが生じたのは、物品費として計上した小型分光装置の購入の際に計画より大幅に経費を節減できたことが主要な原因である。一方、研究成果が順調に得られたため、国際会議での発表を年度末に追加した。この際、必要な経費をやや過大に評価したため、研究費の繰り越しが生じた。これらの繰越額を利用して、当初予定していた信号処理系およびデータ解析ソフトウェアに必要な備品に追加の設備投資を行い、より効果的な実験の実施と有意義なデータ獲得に努める。
|
Research Products
(9 results)