2012 Fiscal Year Research-status Report
走査型プローブ顕微鏡による基板表面下埋没構造の画像化
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24710109
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Research Institution | Toyota Technological Institute |
Principal Investigator |
山田 郁彦 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究補助者 (50527926)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | AFM / 表面ナノ構造 / 膜厚分析 / 組成分析 |
Research Abstract |
AFMを用いた表面ナノ構造の厚み測定手法の開発を目指し、当年度は、GaAs半導体表面に埋め込まれた酸化ガリウムナノ粒子の厚み測定を行った。 試料とAFMカンチレバー間に電圧を印加した際に発生する静電気力は表面ナノ構造の厚みに依存する。このため、静電気力の印加電圧依存性を解析することで表面ナノ構造の厚み解析が実現できると考えている。具体的には、静電気力は印加バイアスに対して2次関数となるが、この関数の変化率は表面構造の厚みに依存すると考えられるため、この傾きを解析することで表面ナノ構造の厚みを逆算できると考えている。 当研究で用いたGaAs基板上の酸化ガリウムナノ粒子は湿潤プロセスで作製したため、具体的な厚み・サイズは不明である。まず、静電気力の膜厚依存性が検出できるか検討するため、静電気力の1階微分値マッピングを行った。これはtip試料間にACバイアスとDCオフセットバイアスを印加し、ロックインアンプへの入力をtipにかかる力、参照信号をACバイアスとし、変調検出を行った。ロックインアンプから出力される静電気力の1階微分値と構造の高さにおいてDCオフセットバイアスを変化させながら同時測定を行った。結果、topographで観察された高さに応じた静電気力の1階微分値を検出に成功した。また、観察された構造の高さとの相関を統計的に処理した結果、定性的ながら、静電気力の理論計算と一致することがわかり、静電気力の傾向から構造の厚みを推計できることを見出した。また、同じ試料について、静電気力の2階微分値の測定を行った。これはロックインアンプにより静電気力を直接2階微分し、傾きを実験値として検出する方法である。この手法によって、静電気力像は構造の大きさにはっきりと依存することを明らかにすることができた。 これらの結果はいままで不可能であった埋没構造のサイズ測定につながる成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書では、ナノスケールの空間において、ナノスケールの精度を持ったナノ構造の厚み測定手法の実現を第一に挙げている。現在までの成果で、目論見通り静電気力は表面ナノ構造の大きさに依存し、AFMで観察された構造の大きさと静電気力の分析値は相関を持つことを明らかにした。これは静電気力の値を計測することで、表面ナノ構造の厚みを逆算して算出可能であることを示している。 これまでの研究成果は申請書に記載した計画通りの進展であると考えている。これらの成果は今まで実現されなかった事柄であり、今後の研究の基礎となる部分である。そのため、研究の最終目標に繋がる重要なステップを達成したと考えている。 しかし、最終目標に対しては解決が必要な問題が多数存在する。特に大きな問題点は測定の定量性が確保できていないことである。これは静電気力がtip-試料表面距離にも依存するため、これが測定誤差となり、無視できない大きさとなるためである。この問題点については、tip-表面距離を変化させながら測定する変調測定を計画しており、目論見通りの実験ができれば解決できると考えている。また、実験試料にも問題があり、半導体では電荷の移動や偏りが発生するため、結果的に静電気力の理論値から実験値が外れることが予想される。これも測定の定量性に問題を生じると考えられる。この問題においても適切な試料構造を検討しており、問題を排除できると考えている。 これらの事由により、計画最終年度において、計画の最終目標である表面構造の厚みと誘電率測定の実現に繋げられると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進の方策は、まず、厚み測定における定量性を確保することにある。これはすでに計画を立てており実現できると考えている。 厚み測定における定量性の確保は、検出できる静電気力の成分のうちナノ構造由来の力のみを検出することにある。現在、これを実現するため、tip-表面距離を変化させた場合の静電気力の2階微分値を測定し、統計的に処理することでナノ構造由来のみの静電気力を検出できると考えている。これはすでに予備的な実験を行なっており、tip-表面距離が静電気力に及ぼす影響を測定している。また、tip-表面距離による影響をキャンセルする手法も考案しており、実測定において導入できるか検討する段階である。 また、今年度の成果を元に、厚み測定の定量性の確認及び表面組成分析に繋がる誘電率測定により適した試料構造についても考案を行なっている。具体的には、金属基板上に絶縁体ナノ微粒子を分散させた構造を想定している。これにより、粒子の大きさはAFMの高さ像として反映され、また絶縁体であるため半導体のように電荷の偏りなどは防げると考えられる。絶縁体ナノ粒子としては、市販品であるシリカやガラスビーズ、ポリスチレン微粒子などを想定している。これらは取り扱いも容易であるため、実験に適していると考えられる。 計画の最終目標として、表面の組成分析を目指した誘電率測定についても実験に着手する。前項までに確立した統計処理において、静電気力の構造サイズに対するグラフのプロットの傾きはナノ構造の誘電率に依存すると考えられる。そのため、静電気力の2階微分値を統計的に処理することで実現を目指す。実際の実験としては、デモンストレーションとして、同じサイズのガラスとポリマーが乗った基板の測定において、材質の違いを反映した像を示す計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究費は主に試料作製と測定の消耗品に用いることを計画している。当研究はAFMの実験的な手法開発であり、実験としてトライアンドエラーを数多く行うためにカンチレバーを多量に消費することが想定される。カンチレバーは単価も高価なため、これに多くの予算を用いる予定である。また、測定系の改造にバイアス電源装置やロックインアンプの増設も検討しており、これらの装置の購入を行う。 また、試料の作製にも研究費を用いる。今年度は金属基板上に絶縁体ナノ構造を付着させることを想定しており、高純度な試薬の購入を予定している。基板の作製ではガラスやマイカ等の絶縁体基板に金属を蒸着することを予定している。これらの基板を作製するために高純度貴金属の購入が必要である。また、貴金属単結晶基板を用いることも想定しており、これらの購入し用いる。これらの基板に付着させるナノ構造体も購入により調達する。ガラスやポリマーナノ粒子はすでに市販品があるため、これらを用いる計画である。 実験の進展に伴い、他の測定による実験結果のクロスチェックも行う。これは厚み及び誘電率測定後の試料について、実験結果の妥当性を検討するために行う。現時点では構造の確認のため、SEMやTEMによる立体構造の解析、また、組成や誘電率の確認のため、XPS等の光電子分光による微量元素分析を行う予定である。これらは高度なテクニックや装置が必要であるため、分析会社への外注を想定している。 研究内容の発表として国内外の学会で発表を検討しており、これら学会への参加料や旅費への充当を予定している。また、論文の投稿料についても充当する予定である。
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