2012 Fiscal Year Research-status Report
ナノスケール分子共振器における量子力学的振動モード制御の理論研究
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24710111
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
植田 暁子 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70453537)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 単分子接合 / 有機分子 / 電子格子相互作用 / 量子ドット / NEMS / 共振器 / フォノン / 量子制御 |
Research Abstract |
本研究では、有機分子を用いた量子力学的な振動モードを生成できる共振器を実現するための理論研究を行っている。分子共振器は電極中に有機を架橋した分子接合になっており、分子の振動モードは伝導電子と相互作用することによって、電気的に制御される。分子共振器を表す一番簡単なモデルとして、電極につながれた分子中の電子の一レベルと分子振動の振動モードが相互作用した系を考えることができる。このモデルを用いて2つのテーマについて理論的な解析を行い、次のような成果を得た。 (1)分子振動の非平衡分布とACコンダクタンス:分子が宙に浮いた状態で電極につながっている場合、分子の振動はフォノン浴と(強く)結合していないため、振動モードの分布はボーズアインシュタイン分布からずれた非平衡分布になる。電子と分子の振動の相互作用が弱い場合について摂動論を用いて取り扱い、ACコンダクタン スを計算した。分子の振動の非平衡分布のACコンダクタンスへの影響、平衡分布の場合との違いについて議論した。非平衡分布の場合、AC電圧の周波数と分子中の電子レベルの共鳴に起因するピークが平衡の場合に比べて大きくなることが分かった。ピーク以外の領域では、電極と有機分子のトンネル結合の強さ、DC電圧の強さを変えることによって、コンダクタンスの強弱が制御可能なことを明らかにした。 (2)伝導電子の電荷の完全計数統計:分子中の電子と分子振動相互作用の影響は、電流、コンダクタンスだけでなく、ノイズなど、電荷分布の高次のキュムラントにも現れるため、その特性を理解することは非常に重要である。モデルハミルトニアンに仮想の計数場を導入することによって、 キュムラント生成関数を用いて伝導電子の電荷の確率分布を求めることができる。我々は、その完全計数統計を調べ、計数場の特異点と分布の関係について明らかにした。また、揺らぎの定理が成り立つことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の課題として、(1)AC電圧による分子共振器の制御、(2)伝導電子の完全係数統計の解析 (3)電子と分子振動の相互作用が強いときの振動モードの非古典化の実現方法の提案を掲げた。(1)と(2)については目標通りの成果を出すことができた。(1)については第31回半導体物理国際会議(ICPS)、第68回日本物理学会年次大会において発表を行った。(2)についてはPhysical Review Bに投稿論文を投稿し、掲載された。また、日本物理学会第68回年次大会において、発表を行った。(1)については現在、投稿論文を執筆中である。今年度中の投稿、掲載を予定している。(3)についてモデルのボゾン化のところに計算の問題点があるため、引き続き問題に挑戦し、解決していきたいと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に解決できなかった課題である「スクイーズド状態のような非古典的な分子の振動状態が実現出来る方法」を探る。そのため、電子と分子振動の相互作用が強結合のときに有効なボゾン化法の問題点を解決するとともに、電極が常伝導体でない場合(トポロジカル超伝導体の電極と結合した場合)などについても研究を行いたい。問題の解決のために、Amnon Aharony先生、Ora Entin-Wohlman先生の協力をお願いする。また、交付申請書に計画した通り、電子と分子の振動のモードの相互作用の結合が強い領域と弱い領域の中間領域の場合のについても研究を進める。さらに、熱伝導、熱電効果の問題についても計算、議論を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に購入予定だったワークステーションの購入を平成25年度に延期したため、平成24年度に未使用額が発生した。このワークステーションは、主に平成26年度に研究する予定である「具体的なデバイスを想定し、モデル化した大規模な計算シミュレーション」に用いる。計算環境を整備するために、平成25年度に購入を行う。さらに、ワークステーション用のソフト(Matlab, Fortran)を導入する。また、平成24年度から持ち越した課題の問題点の解決のため、共同研究者のAmnon Aharony先生とOra Entin-Wohlman先生をイスラエルより招聘し、研究議論およびセミナーをして頂く予定である。研究成果発表のため、日本物理学会(秋:徳島大学、春:東海大学)に参加する。
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