2012 Fiscal Year Research-status Report
ナノベシクル1粒子ゼータ電位計測システムの開発とエキソソーム分析への応用
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24710114
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤木 貴則 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80401149)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | エキソソーム / ゼータ電位 / 乳がん / 前立腺がん / ナノバイオ |
Research Abstract |
平成24年度には、直径100 nm以下のナノベシクルの重要な物性であるゼータ電位を1粒子で計測するためのチップ型システムを開発した。ソフトリソグラフィー法によりポリジメチルシロキサン(PDMS)製の電気絶縁性に優れ、光学的ひずみのないマイクロ流体チップを作製し、非特異吸着抑制のために流路内表面をMPCポリマーでコーティングした。チップ内電気泳動しているナノ粒子にレーザを照射し、生じるレイリー散乱光を対物レンズで集光し、高感度イメージング技術により撮像することによって、全く新しいナノ粒子の電気泳動度計測を実現した。 粒径の異なるナノリポソームを作製し、本方法論を用いてそのゼータ電位を計測することによって、構築したシステムの性能を評価する実験の過程で、数十ナノメートルの粒径を有するナノリポソームのゼータ電位のバラツキが、ナノリポソームを構成する負電荷脂質分子の統計的ゆらぎに従って広い分布をもつという、ナノ世界に特有な現象を発見した。本研究結果は英文誌「Electrophoresis」に発表した。 研究計画を前倒しし、本システムを用いてエキソソームのゼータ電位分析へと応用した。乳がんと前立腺がんをモデルとして、正常細胞およびがん細胞の培養上清からエキソソームを精製し、エキソソーム及び由来細胞のゼータ電位を計測した。がん細胞とがん細胞由来のエキソソームの平均ゼータ電位は正常細胞に比べて負に大きく変化し、エキソソームと由来細胞のゼータ電位の間に強い相関関係が認められた。エキソソームの表面の電気的性状は、由来細胞表面の電気的性状の変化を反映しているものと考えられ、細胞の状態や種類がそれら細胞から放出されるエキソソームの体内での挙動、即ちエキソソームを介した細胞間コミュニケーションに影響していることを示唆するものである。本研究結果は英文誌「Jpn J Appl Phys」に受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ナノベシクルのゼータ電位計測システムの開発、および人工ナノベシクルのゼータ電位を計測し、その課程でナノ世界特有の現象を見出した。本成果は英文誌に掲載され、当初の計画を達成した。更に、次年度で計画していたエキソソームのゼータ電位計測に着手し、エキソソームとその由来細胞のゼータ電位の関係性を明らかにした。この成果は英文誌に掲載が決定しており、当初の計画以上の進展がみられた。
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Strategy for Future Research Activity |
当該方法論のエキソソーム表面タンパク質分析への展開を目指す。エキソソーム表面には由来細胞を反映するタンパク質が存在しており、この表面タンパク質を分析することで異常細胞の有無など、診断に有用な情報の取得が期待される。従来技術として、エキソソームマーカーであるCD63抗体修飾ビーズ上に多数のエキソソームを保持した後、蛍光修飾抗体でラベルしてフローサイトメトリーで計測する手法などが提案されている(C. Lasser, J Vis Exp, 2012)。しかし、この手法では個々のエキソソームを計測しないため、不均質なエキソソームの集団を定量的に解析することは難しい。このような課題を克服しうる新たな分析手法として、チップ免疫電気泳動法を構築し、エキソソーム表面分析への応用を試みる。 ヒト乳がんMDA-MB-231(MM231)細胞をモデル細胞とし、抗ヒトCD63抗体と30分間反応させた後、マイクロキャピラリーチップに試料を導入し、電界を印加して電気泳動を行い、個々の粒子のゼータ電位を評価し、抗体との反応によるエキソソームのゼータ電位変化について調べる。 更に、本方法論を悪性乳がんの指標であるHer2タンパク質の分析へと応用する。Her2発現株であるSk-Br-3細胞由来のエキソソームに対して抗ヒトHer2抗体を用いて免疫電気泳動実験を行い、エキソソームを利用する診断法の可能性について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
電気泳動チップ作製のための材料費、細胞およびエキソソーム準備および抗体等の試薬費、学会参加のための旅費、学会参加費、論文投稿にかかる経費として使用する計画である。
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Research Products
(15 results)