2012 Fiscal Year Research-status Report
結合量子ビット間の情報伝達を担う量子通信路キューバスの開発
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24710148
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小幡 利顕 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (90626508)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 量子情報処理 |
Research Abstract |
本研究は量子通信路(キューバス)を実現するための『浮遊ゲート』を開発し、十分離れた2つ以上の『キュービット』間の量子演算処理を目的としている。昨年度の平成24年度は2つのキュービットを静電的に結合させることを目的として研究を行った。予定通りキューバスをキュービット間の量子演算実験に取り入れる準備ができた。 申請者は2重量子ドットからなるキュービットを1.5μm離して2つ配置した構造を作成した。2つのキュービットの間には縦1μm、横1.5μmのサイズに閉じ込めた2次元電子ガスでできた浮遊ゲートが配置されている。この浮遊ゲートがキューバスとして働く。浮遊ゲートはキュービット以外の外界とは相互作用しないようウエットエッチング法で外界から切り離されている。 各キュービットには小数個の電子が閉じ込められている。キュービットの電子数が変わるときにクーロンピークが観測される。1.5μm離れたキュービット間の相互作用をクーロンピークの位置がずれることにより確認した。 今回の我々の研究結果は、閉じ込められた2次元電子ガスが浮遊ゲートとして働いていることを示しており、過去に例を見ない。キュービットを構成する2次元電子ガスをそのまま用いるため、今回の2次元電子ガスを用いた方法は本質的に簡便で可搬的な方法であるといえる。 これらの結果は2013年度にポーランドで開催される国際学会16th international conference on modulated semiconductor structuresで発表予定である。またこれらの結果を論文にしたためている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は量子通信路(キューバス)を浮遊ゲートの形で実現し十分離れた2つ以上のキュービットを長路離にわたり結合させることを目的としている。昨年度の平成24年度は2つのキュービットを静電的に結合させることを目的とし将来的には個々のキュービット演算結果を離れたキュービット間で相互作用させることを念頭に置いている。 キュービットを多重に結合させる足がかりとして申請者は2つの2重量子ドットを金属浮遊ゲートと空間的に閉じ込めた2次元電子ガスの浮遊ゲートを用いて結合させることを試みた。金属ゲートも閉じ込められた2次元電子ガスも量子ドットを静電的に結合させることができたが、その結合は弱く浮遊ゲートに帯電した電荷が外界に逃げてしまうことが原因であることが分かった。 具体的にはまず2つのキュービットを1μm離し、その間に2次元電子ガスの浮遊ゲートを作成した。このサンプルで量子ドット間の結合を観測したものの、その結合は約10μeVと非常に小さいものであった。このエネルギーは典型的な1電子帯電エネルギーの1/100である。この原因は前述のように浮遊ゲートが外界と不必要に結合していたため浮遊ゲートから静電結合を担う電荷が逃げ出してしまったためと思われる。 この不必要な外界との結合を断つためにあえて量子ドット間の距離を1.5μmと離して配位した。こうしてできた隙間に不必要な結合を断つための機構を作成した。ウエットエッチング法によりキュービットの電子溜めと浮遊ゲートの結合を弱めた。このサンプルを用いてキュービット間の結合を観測したところ、その結合定数は300μeVと飛躍的に大きくなった。すなわち浮遊ゲートを通して2つのキュービットは効果的に相互作用することが示された。 このように初年度の目的である、キュービット間を浮遊ゲートにより結合させることを成功し、そればかりか世界的に例を見ない方法を開発した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は前年度に達成した浮遊ゲートをいよいよキュービットと組み合わせることを予定している。本年度の早い段階でサンプル作成を終了し、キュービットの実験並びに浮遊ゲートとの結合を実験により確認する。 近年の国際競争の激化により、2次元的なキュービット構造である『サーフェスコード』に関する理論提唱が活発になされている。このため研究を加速し、サーフェスコードを実現するために方針転換をする必要がある。サーフェスコードは浮遊ゲートのもっとも簡単な応用実施例であり、現実の量子計算素子として注目を集めるに違いないと思われる。申請者は前年度に達成した浮遊ゲートを応用して2次元サーフェスコードの実現を本年度からの課題として提示、並びに実験を開始しようと考えている。具体的には量子ドットをキュービットの周りに正方形上にたとえば4個ほど配位して、キュービットの情報を浮遊ゲートを介してこれらの量子ドットにより読み取る。このような構造は『スター構造』と呼ばれている。キュービットの情報は周りに配位した2つの量子ドットにより読み取られ、エラーがあるか否か非破壊に(コヒーレントに)調べることができる。エラー訂正などの量子操作は残り2つの量子ドットの電子状態を変えることにより行われる。 さらに上記のエラー検出のための量子ドットは超伝導からなる単電子トランジスターと置き換え可能である。 本年度はこのようなスター構造の実現と、キュービット間の量子演算を実現したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記キュービット操作のためには高周波信号が必要であり、そのために高周波特性を測定する必要がある。予定通りネットワークアナライザーの購入を検討している。前年度の市場状況に照らし合わせると、新品のネットワークアナライザーは申請額の10倍以上も必要であるが、中古のネットワークアナライザーは申請額程度でも十分購入できることが分かった。市場調査をして、費用の軽減を考慮した。
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Research Products
(2 results)