2012 Fiscal Year Research-status Report
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24710152
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
江上 喜幸 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20397631)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 電子輸送特性 / 第一原理計算 / 時間依存密度汎関数法 / 分子デバイス |
Research Abstract |
平成24年度において、時間依存密度汎関数法(TDDFT)に基づく電子輸送シミュレータの開発に取り組み、性能確認を兼ねて分子ワイヤーモデルを用いた動的な電子輸送特性の解析を行った。ここでは、分子デバイス研究によく用いられているphenyl chainモデルを採用し、対向する金電極間に吸着したterphenyldithiol分子について、phenyl ring間の相対角も考慮したシミュレーションを実行した。 定常状態における輸送特性計算では、主に2つの伝導チャネル(Ch.1、Ch.2)の寄与が見られた。電子の入射エネルギーに対する透過率の変化を解析した結果、Ch.1では広いエネルギーレンジでなだらかなピークがみられたが、相対角が大きくなるにつれ寄与が小さくなることが分かった。一方で、Ch.2では、構造変化に対して敏感なエネルギーシフトがあるものの、どの相対角度でも局所的なエネルギーレンジで高い透過率を示すピークがみられた。 この系に対し、本研究で開発した動的電子輸送シミュレータを用いた解析を行った。まず、伝導特性のフェムト秒オーダーでの時間応答を調べた結果、Ch.1のピークは観察できたが、Ch.2に対応するピークはみられかった。離散的なエネルギーグリッド点における透過率を求めているため、エネルギーに対して敏感なピークを検出できなかった可能性と、シミュレーション時間が短すぎた可能性を鑑み、より細かいエネルギーグリッドを用い、長時間の時間発展計算を実行した。この結果、ピコ秒オーダーのシミュレーションでようやく対応するピークが現れることが分かった。 以上のことから、Ch.2の応答はCh.1に比べて緩慢であり、また、有限温度の系ではTHzオーダーの分子内振動が励起されるため、分子のコンフォメーションによって状態が敏感に変化するCh.2の寄与はほとんど無視できるという新たな知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度途中に異動があり、新しい研究環境の構築や教育業務の実施などに時間を取られ、研究の遂行に一部滞りがあったが、前述の通り、一定の成果は得られたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果として、動的電子輸送シミュレーションを実行することで新たな知見が得られ、本手法の性能、および有用性を示すことができた。平成25年度においては、当初の計画通り、さらなる計算手法の改良を行うとともに、近年、電子デバイス材料として注目を集めているグラフェン系における動的電子輸送特性について解析を行う。具体的には、実際のデバイス作製において問題となるグラフェン表面の酸化や不純物分子の吸着、あるいは原子空孔などの欠陥を想定し、これらに起因する電子輸送の乱れ、および定常状態に至るまでのプロセスをリアルタイムに解析することで、ナノグラフェンにおける特異な量子機能発現のメカニズムとデバイス特性の相関関係を明らかにしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度途中の異動に伴い、研究計画に遅れが生じ、また研究環境の新規構築が必要となったため、当初の使用計画から大幅な変更をせざるを得なくなったため、次年度への繰越金が発生した。本研究費については、平成25年度分の研究費とあわせて、新しく構築したクラスタ計算機システムの拡充、周辺機器購入経費に充てる。
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Research Products
(4 results)