2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24710152
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
江上 喜幸 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20397631)
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Keywords | 第一原理計算 / 時間依存密度汎関数法 / 電子輸送特性 / Impulse Response法 |
Research Abstract |
本研究課題では、ナノ物質中を伝播する電子の動的な輸送特性解析を目指し、時間依存密度汎関数理論に基づく電子輸送シミュレータの開発および応用研究を通して、次世代電子デバイス材料として有用な材料のデザインに向けた基礎研究を行うことを目的とした。 平成25年度においては、前年度までに開発したシミュレータを用いた応用研究として、炭素系ナノ材料や有機分子材料を対象とし、動的電子輸送特性の解析研究を推進した。炭素系ナノ材料であるグラフェンやカーボンナノチューブを対象とした研究では、欠陥の影響を受けず、輸送電子が後方散乱をされない完全透過チャネルが現れる現象について解析を行った。また、有機分子材料を対象とした研究では、π共役系分子であるphenyl環が単結合で連なった分子ワイヤー中を輸送する電子の時間応答について解析を行った。 本研究課題により、特に分子ワイヤー系の研究において、非常に興味深い成果が得られた。本研究で用いた系では、Fermi準位近傍で2種類の輸送チャネルが存在しており、シミュレーションによって電子輸送にかかる時間を調べたところ、一方はフェムト秒オーダー、他方はピコ秒オーダーと大きく異なることが明らかになった。このため、一般にテラヘルツのオーダーである分子内振動モードを考えると、伝播速度の遅いチャネルの応答は無視でき、電子輸送に寄与しないことを示した。 定常状態における電子輸送現象については、すでに多くの研究成果が報告されているが、本研究課題では輸送チャネルにおける伝播速度の違いなど、定常状態では見えてこない時間応答に着目した新たな切り口を示し、これまでにない非常に重要な成果を得ることができた。今後、本シミュレータを発展させていくことで、ナノ物質の物性研究分野においてさらなる飛躍が期待できると考える。
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