2012 Fiscal Year Research-status Report
負のスピン分極材料の磁気緩和制御と高効率微細スピン注入源への新展開
Project/Area Number |
24710154
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Fukushima National College of Technology |
Principal Investigator |
磯上 慎二 福島工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (10586853)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 窒化鉄 / 磁気緩和 / スピン流 / 赤外線加熱プロセス |
Research Abstract |
電流から電荷を除いた量子情報の流れであるスピン流に関する理論物理研究や,自由度の開拓からデバイス応用へ向けた制御に関する実験研究が進展している. 本若手研究B全体で掲げた2つの目的は,未だ報告例のない負のスピン分極材料である窒化鉄薄膜(Fe4N)に着目し,その磁気緩和機構の解明と制御方法の確立と,磁気緩和現象の反作用として結合性のあるFe4N薄膜からのスピン流生成である. 目的を達成するためには,Fe4N薄膜の結晶性,規則性の向上へ向けた薄膜作製プロセスの構築が必要である.従来は室温成膜後の赤外線加熱プロセスによって規則化を行っていたが,動的磁化特性の実験で特性の個体差に問題を有することが判った.そこで平成24年度の研究実施計画に成膜中加熱機構の構築を掲げ問題解決を試みた.検証方法は動的磁化過程(強磁性共鳴下の磁化歳差運動)によって生成されるスピン流検出と,磁気緩和定数の定量化とした. まず赤外線加熱機構の構築では,現有チャンバー側面に石英ビューイングポートを設置し大気中からの赤外線熱放射によって基板裏面から加熱できる機構を設計し改修を行った.3個の同じポートを設置することで成膜中のみならず,成膜後加熱も行える自由度を付加した.改修後の装置を用いたFe4N/Pt薄膜の作製を行い,Ni-Fe合金/Pt薄膜との比較を動的磁化測定実験を通して行った.膜厚の増大に対する磁気緩和定数の変化は,Ni-Fe合金薄膜で反比例を示すのに対し,Fe4N薄膜においては逆特性を示した.本実験で求められる磁気緩和定数の大きさは,定性的にはPt薄膜へ注入されたスピン流密度と対応する.従ってFe4Nが示した値の変化は界面だけでスピン流の大きさが決まるという従来の考え方を覆す結果であり,スピン流の新たな物性の開拓に貢献するものと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本若手研究B全体で掲げた2つの目的は,未だ報告例のない負のスピン分極材料である窒化鉄薄膜(Fe4N)に着目し,その磁気緩和機構の解明と制御方法の確立と,磁気緩和現象の反作用現象として結合性のあるFe4N薄膜からのスピン流生成である. 目的を達成するために,成膜中加熱機構の構築を行い規則性,結晶性の改善を行った.作製されたFe4N/Pt薄膜の磁気緩和定数の膜厚依存性を調べたところ,従来のNi-Fe合金/Pt薄膜と比較して,大きく増大する結果が得られた.これは本来材料固有であった磁気緩和定数を膜厚で制御できることを示唆する.さらに膜厚の厚い(20 nm)領域において磁気緩和定数が増大する点では,スピントルクオシレータ積層膜の磁化固定層として期待できる.このように当初の予想をはるかに上回る物性を見出したため進展が著しいと判断される. スピン流物理の研究は未だその自由度の開拓や制御方法の定性的な模索が続いており,将来へ向けたスピン流密度向上に関する材料研究は進展が遅い.Fe4N/Pt薄膜の磁気緩和定数の定量化実験を根拠とすると,Fe4Nをスピン源とすることで従来のNi-Feより高効率のスピン注入が実現されることが明らかとなった.当初の計画では,負のスピン分極材料からのスピン流生成が可能かだけを定性的に調べるものであったが,得られた結果は生成が可能であったのみならず,値がこれまで検討されてきた材料系より大きいという重要な知見を得た. このように本研究題目である「高効率スピン注入源の創生」を著しく推進できる見通しが1年目の研究成果から明らかとなったため,計画以上の進展と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究成果は負のスピン分極率を有するFe4N薄膜にPt薄膜を接合することで,Fe4N膜厚の増加と共に高い磁気緩和定数が得られること,また磁化ダイナミクスによるスピン流の生成では高効率スピン注入源として期待できることであった.しかしながらそれらの物理的な原理が明らかとなっていない.これを解決することにより,負のスピン分極を示す材料からのスピン流生成の優位性が示され,本研究題目である「高効率スピン注入源の創生」へ直接貢献すると考えられる. 磁気緩和定数の膜厚に対する増大効果の原因として,Fe4N薄膜の規則性の向上またそれによるスピンポンピング(局在スピンと遍歴スピンの相互作用による自由電子の移動)のエンハンスと予想される.従来の研究は定まった材料でのみ行われ,微視的な結晶構造とスピン輸送現象との関連は無視されてきた.伝導電子が結晶場に大きく依存することを考慮すると,結晶性の向上は大きな特性向上に直結すると考られ,デバイス応用研究が加速する. 具体的な検証実験方法は,まず大粒径下地薄膜を作製し,これをテンプレートとしFe4N薄膜の結晶粒増大を試みる.もう一つはFe4N/Ptのミスフィットによるエピタキシャル関係の劣化を抑制することである.現在のところPtはスピン軌道相互作用が非常に大きいため,スピン流検出層に起用されている.しかしFe4N薄膜の結晶格子定数とよく合う非磁性金属,あるいは他の材料を探索しPtとの置き換えをする予定である. 以上の結果は応用磁気物理,スピンエレクトロニクス関連の論文や学術研究会に投稿し,成膜プロセスの重要性を広く発信する予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画は,大変少額であるため主として消耗品の購入に充当する予定である.具体的な品目は額面から判断して,実験記録ノートと考えている.
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