2012 Fiscal Year Research-status Report
非線形半正定値計画問題に対する錘への接近を考慮した信頼領域法の構築と実装
Project/Area Number |
24710161
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
山下 真 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (20386824)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 応用数学 / 数理最適化 / 非線形最適化 / 半正定値計画問題 |
Research Abstract |
半正定値計画問題は、行列の固有値に関する制約を付加する数理最適化問題であり、その応用範囲は制御理論や量子化学など広範囲にわたる。本研究で対象とする非線形半正定値計画問題では、最大化あるいは最小化する目的関数が非線形関数を扱う問題へと拡張される。しかし、従来の内点法では反復計算の探索点が半正定値錐に接近したときに数値的に不安定な挙動を示すことが多い。非線形計画問題に対する数値的に安定したアルゴリズムの構築・ソフトウェアの実装は、既存手法では数値的不安定性から困難であった金融工学や建築物構造計算などの分野の応用問題に貢献できると考えられる。 本研究では、非線形半正定値計画問題の数値的安定性を向上させるために、各変数の上下限制約を持つ問題に対してColeman & Li が提案した信頼領域法(以下CL1996)を拡張することを目指す。本年度は、研究の初年度であり、以下の2点を進めた。 (1) CL1996、およびCL1996から派生した文献を調査することで、制約接近に有効な信頼領域法の設計に関する知識を蓄積した。また、錐計画問題に関する文献などから、半正定値錐や対数障壁関数の持つ性質についても調査を行った。これらは反復計算の収束を議論するために必須と考えられる。 (2) 変数行列の固有値の微分が必要になる可能性を見据えて、固有値微分に関するソフトウェアの実装などを検討した。 また、本研究では高速なソフトウェア実装への知見の蓄積も重要と考えている。本年度は、これまでに実装してきた半正定値計画問題に対する並列計算ソフトウェアの大規模実験が行われ、従来のソフトウェアでは不可能であった規模の半正定値計画問題を求解できることが示された。この成果は、今後の非線形半正定値計画問題のソフトウェア実装に結びつく多くの知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
信頼領域法は探索点の更新を繰り返して最適解に到達する反復計算の一種であるが、CL1996では、上下限制約に接近した場合に信頼領域を調整することで、次の探索点が過剰に制約に接近することを防ぐメカニズムを持っている。錐への接近を考慮した信頼領域法を構築する際に重要となるステップは3点あり、それぞれ(1)目的関数の2次近似関数の設計、(2)各反復での目的関数減少の保証、(3)信頼領域半径の調整である。 平成24年度は、このうち2次近似関数の設計を進めた。これまでに1次の最適性条件を導出しており、この最適性条件を満たす点へと到達する探索点を導出できる信頼領域法の構築を進めてきた。CL1996の場合も2次近似関数の段階で、上下限制約への接近具合を情報として取り込んでおり、これを非線形半正定値計画問題へ拡張する場合は、変数行列の固有値の情報を取り込むこととなる。本研究でも、固有値の微分に着目し、ソフトウェアとして実装するためのアルゴリズムを検討した。この固有値微分に時間を費やしたが、同時に錐への接近に対する広範囲な情報を収集できた。 また、信頼領域法における探索点列の最適解収束に関する議論では、点列の一部が最適解に収束することを示した後に点列全体の収束性を示すのが一般的である。この議論の過程は、非単調スペクトラル勾配法などでも頻出の手法である。統計で用いられる変数行列の対数行列式を含むような半正定値計画問題に対する非単調スペクトラル勾配法では、変数行列の正定値性も制約を構成する一つとなっており、これを参考することで、今後の議論展開に有益な手法を検討した。 その一方で、信頼領域法のソフトウェア実装には着手できておらず、上に挙げた各反復の目的関数の減少などを保証したアルゴリズムを構築し、ソフトウェア実装に着手したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の主な検討課題は、信頼領域法のアルゴリズムを構築に向け、2次近似関数の設計を完成させる。これまでは固有値微分を中心に進め、これに時間を費やしてきたが、固有値の微分は計算コストが増大する傾向が強く、計算コストを抑えるためにFrechet微分なども検討を進めることとする。また、次の探索点への移動を決める探索方向についても、目的関数の導関数の情報を利用することで、各反復での目的関数の減少を保証する枠組みを取り入れる。 ソフトウェア実装では、2次近似関数の計算がFrechet微分を用いても、計算時間の主要なボトルネックになることが推定されるため、この部分をマルチスレッドなどの並列計算で計算時間短縮することを目指す。錐への接近では、一部の計算に高精度な計算が必要となる事態も予測されるが、その場合には多倍超計算など限定的に取り込むことで、全体の計算速度を維持しつつ、数値精度の向上を行う。 また、同じく非線形半正定値計画問題を取り扱っている Xu らの許容方向法についての文献調査から、実用的な応用へ進むためのアルゴリズムの効率の検証に必要なテスト問題の整備方針を得ることができた。他の研究への利便性という視点からもテスト問題を順次整備することを、ソフトウェアの実装と並行して進めたい。 これらの研究で得られる成果は、Journal of Global Optimization, Journal of Optimization Theory and Applications などの学術雑誌への投稿を目指す。また、ソフトウェアについては、マニュアルや上記のテスト問題などを整備し、ホームページ上で公開する。さらに、Ubuntu などの Linux ディストリビューションにおけるパッケージを提供し、多数のユーザが利用可能なソフトウェアとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、購入を想定していた機能と同等のものを、より低価格で購入できた、などを含めて効率的に研究予算を利用することができた。平成24年度の未使用額も含めて、平成25年度の計画のために以下のように予算を使用する予定である。 平成25年度では、構築する信頼領域法アルゴリズムの性能評価のために数値計算用ワークステーションを導入する。マルチスレッドや多くの計算時間を必要とする多倍超計算の計算時間を短縮するため、8コア程度のコアで計算できるワークステーションがコストパフォーマンスの点で優れている。 また、INFORMS Annual Meeting 2013には、多くの数理最適化研究者が参加することが予想され、ここの発表の聴取で信頼領域法に関する横断的な情報収集ができるとともに、研究者と直接議論をする機会が得られると期待できる。応用数学の並列計算を対象とするに国際学会 SIAM Conference on Parallel Processing for Scientific Computingでは、数理最適化分野における効率的なマルチスレッド計算などの情報を得られる可能性が高い。国内でも数理最適化の最大のシンポジウムであるRAMPへの参加により、数理最適化一般に関する情報収集を行う予定である。 研究費の一部は、数理最適化分野などに関する図書購入、および学術雑誌への投稿における投稿料に充てる。
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