2013 Fiscal Year Research-status Report
非線形半正定値計画問題に対する錘への接近を考慮した信頼領域法の構築と実装
Project/Area Number |
24710161
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
山下 真 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (20386824)
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Keywords | 応用数学 / 数理最適化 / 非線形最適化 / 半正定値計画問題 |
Research Abstract |
線形計画問題は数理最適化分野の中核をなす数理モデルであるが、これを対称行列の空間に拡張した半正定値計画問題も、制御などの工学的な応用や量子化学計算など、幅広く用いられている。非線形の目的関数非線形も扱う非線形線形計画問題は、より多様な用途に活用されており、変数行列の固有値の上下限制約だけを扱う場合でも、金融工学など不確実性を伴う状況下での最適化計算などに利用されている。しかしながら、最適解が制約条件となる錘の境界に近くに存在する場合、従来の内点法ではゼロ行列に近い行列の逆行列を求める必要があり、数値的に不安定な状況に陥りやすい。 本研究では、変数それぞれ独立に上下限制約が付加された最適化問題に対して Coleman & Liが提案した信頼領域法をベースとして、上下限制約付き非線形半正定値計画問題に対する数値的に安定した数学的手法の構築を目指している。本年度は、研究全体の2年目であり、主に以下の2点を実施した。 (1) 信頼領域法における2次近似関数の設計:信頼領域法は、目的関数の2次近似関数を用いることで、より最適解に近い探索点を求める反復計算であるが、本研究では固有値の情報を組み込むことで錘制約の境界への接近を反映した2次近似関数を設計した。これにより、探索点が境界に過剰に接近することを抑制し、数値的に安定した反復計算が可能となった。 (2) 数値実験による数値的安定性向上の確認:(1) で設計した2次近似関数に基づく信頼領域法をコンピュータプログラムとして実装し、いくつかのテスト関数を用いて数値実験を行った。その結果、Xu らの許容方向法と比較して、本研究の数学的手法は、一般に反復回数が多くなるが、許容方向法などでは錘の境界に接近して数値的な不安定に陥りやすいテスト関数に対しても、安定して最適解を求解できることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、信頼領域法に基づいて数値的に安定した数学的手法の構築を目指しているが、このような数学的手法の研究には大きく分けて3つの段階があり、それぞれ(1)2次近似関数を含む数学的手法の設計、(2)最適解が得られることの数学的保証、(3)数値実験による数学的手法の有効性の評価である。このうち、(1)の数学的手法の設計では、前年度に行った信頼領域法に関する情報収集を活用することができ、本年度の2次近似関数の設計につながっている。これにより、本研究で提案する数学的手法全体の設計が可能となった。この手法全体の設計のあとに証明などに基づく(2)の数学的保証の議論を行うことも検討したが、数学的手法をコンピュータソフトウェアとして実装したときには数値誤差などの影響なども考慮する必要があるため、本年度は(3)の数値実験による評価を先行させることとした。 数値実験では、Xu らの許容方向法と比較した場合に反復回数が多く、その結果として計算時間が長くなる傾向が表れている。このことは、信頼領域法が最適解を得られる保証を強く意識した手法であることに因ると推察している。その反面、本研究の焦点である数値的安定性については、最適解が錘制約の境界に存在するようなテスト関数に対して許容方向法では固有値の振る舞いにより十分な精度で最適解を得られないが、本研究では設計した2次近似関数の性質に基づいて、錘制約への接近を制御し、高い精度で最適解を得た。懸案であった数値誤差の影響も、本研究の数学的手法では深刻ではないことを確認できた。 以上のように、数値実験を通して本研究で設計した数学的手法の数値的安定性を検証しており、達成度としては「おおむね順調にしている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
既に数値的安定性を数値実験により検証していることから、今後の研究の中心を最適解が得られることに対する数学的な証明を与えることに移す。信頼領域法などの証明では、現在の探索点から次の探索点への移動を十分な距離で行うこと、および、各反復で目的関数が減少を保証すること、などが結果としてが最適解を得ることを導出する。 このうち、次の探索点への移動に十分な距離を得ることは、Coleman & Li が対象としている最適化問題の場合には各変数が独立しているために比較的容易であるが、本研究の対象である非線形半正定値計画問題では行列の固有値として互いに密接に影響するため、Coleman & Li の証明自身を直接拡張することは困難である。本研究では、半正定値計画法に対する内点法で用いられているNT方向や HKM 方向などの知見から得られる対称行列の固有値に関する性質を検討することとしている。 また、各反復での目的関数の減少に関しても、これまでに設計した2次近似関数の性質を利用して証明を行う。また、この2次近似関数が本来の目的関数を精度よく近似できるのは、現在の探索点から信頼半径と呼ばれる一定の距離までの範囲であるが、信頼半径の長さを各反復で適宜調節することで2次近似関数の精度を維持し、反復回数の抑制することも検討する。これによって、計算時間の短縮などを見込むが、このことは錘制約の接近とも関係が強いため、さらなる数値的安定性の向上にも寄与すると考えられる。 これらの数学的証明や数値実験などの成果は、Journal of Global Optimization や Journal of Optimization Theory and Applications などへ投稿する準備を進める。また、数値実験のために実装したコンピュータソフトウェアもホームページ上で公開する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、数値計算用に購入した数値計算用サーバーが当初想定した性能をより安く購入できたため、その分を平成26年度に繰り越すこととしている。 この金額は、数理最適化に関する書籍の購入などに充て、信頼領域法の情報収集などに活用したい。
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