2012 Fiscal Year Research-status Report
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24710228
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
津留 三良 大阪大学, 情報科学研究科, 助教 (80594506)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 遺伝子発現ノイズ / 一細胞観察 / 微細加工 / 遺伝子発現 / バクテリア / 環境適応 |
Research Abstract |
遺伝子の転写や翻訳などの生化学反応は、熱ゆらぎによって確率的に進行することが知られている。その結果、全く同じ遺伝情報を持つ姉妹細胞間でも転写量・翻訳量が異なり、多様な性質や機能が生じている。近年の研究から、生物はこの分散する性質を巧みに調節し、様々な周期で変動する環境へも迅速に適応していると考えられており、その検証実験が求められている。しかしながら、従来の細胞培養技術では、環境となる培地の交換速度に制限があるとともに、一細胞の時系列観測が困難であった。これらの問題点から、目的とする変動環境下で細胞個体間のばらつきが変化し、適応が生じるメカニズムは明らかとなっていない。そこで本研究では、顕微鏡下でリアルタイムに観測可能で、交換速度が早い微細な培養装置を開発し、この問題点の克服を目的とした。 微細な集積回路の開発・製造に用いられるフォトリソグラフィ技術を用いて、高速な培地交換が可能なpLスケールの培養装置を開発した。この培養装置は、細胞をトラップするための小部屋(pLスケール)と、培地成分濃度を様々な周波数で供給する発振流路(幅100 μm程度)から構成され、全体が生物顕微鏡のステージに収まる程度の大きさである。培地はマイクロシリンジポンプをPC制御によって駆動させ、一定時間ごとに異なる培地を小部屋へ供給させた。 小部屋の形状や流路の幅・長さなどを様々な条件で検証し、培地交換速度が高速でかつ制御可能な培養装置へと最適化を行った。具体的には、培地中に混ぜた蛍光色素や蛍光ビーズを用いて、小部屋へ供給・排出される蛍光強度から交換速度を計測した。その結果、申請書で当初目標とした交換時間の半分以下である十秒程度で培地交換が可能な微細な培養装置を完成させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画のスペックを満足する微細な培養装置を、当初計画通りの期間内に完成させた。 μmスケールの幅をもつ微細な流路では、非常に小さな気泡(マイクロバブル)の混入が致命的な欠陥になる。気泡は主に、流路の送液口とチューブの接続時に混入し、例え小さな気泡であっても、それらが集まることで流路を塞いだり、脈流の原因となってしまう。様々な回避方法を紹介している(エアートラップ構造等)が、いずれも流路のデザイン全体を大きく変える上、局所的な予防にしか使えないため、培養装置の設計や最適化に非常に時間がかかる。流路内の局所的な変更が培養装置全体の性質を大きく変え、それまで最適化した全てを無効にするのでは、効率的に開発することができない。そこで、培養装置自体を使用前に脱気する工夫を行った。これにより、接続時に混入した気泡が流路の壁面(つまり培養装置自体)に吸収されることが分かった。この方法は流路の何処に気泡が混入しても吸収できるうえ、流路のデザインに全く依存しない。この小さな技術的工夫によって、培養装置の開発を一年以内に可能にできた。
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Strategy for Future Research Activity |
周期変動する環境下で、細胞の個体間のばらつきの時間変化や応答性を調べる。 完成させた培養装置を用いて、実際に培地中の誘導剤や栄養、抗生物質を様々な周期、振幅で振動させ、細胞培養を行う。本研究では、広く用いられているモデル生物である大腸菌を用いる。大腸菌のゲノム上にGFP遺伝子を導入し、発現産物である緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光強度から、遺伝子の発現量を計測する。細胞の状態は、培養装置から物理的にサンプリングすることなく、リアルタイムに顕微鏡観察する。これにより、培地中の栄養や毒素に依存して一細胞レベルの遺伝子発現量と細胞の体積および細胞周期の時間変化を捉える。このように、個々の細胞毎にどのような応答を示すか、環境変化の周波数に応じてどのような特性をもつかを明らかとすることで、集団レベルで現れる環境応答が、個々の細胞のどのような変化に基づいて成り立っているかを明らかとする。個々の細胞のばらつきが揃うような周波数があるのか、一部の適応細胞の選択的な応答が生じるのか等、これまでの培養装置では観察できなかった細胞の応答特性を見分けるとともに、培養工学として制御可能かどうかを検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
顕微鏡下において、様々な周期で培養液を交換する微細な培養装置を開発するためにフォトリソグラフィ設備(現有)を引き続き用いる。よって、設備費は計上しないが、消耗品が高価である。μmからnm幅の流路を持つ培養装置の製造には、半導体素子の開発・製造に用いられるフォトレジスト(一瓶当たり10~20万円)、シリコンウェハ(一枚当たり2000円、一実験で10枚使用する)、ガラス製フォトマスク、現像液、熱硬化樹脂等の多岐にわたる高価で高品質な試薬・材料が必須であり、これらを引き続き使用する。また、培養装置自体も消耗する材質(PDMS)で作製し、実験ごとに細胞で汚染され廃棄するため、多数作製し、使用していく。 また、大腸菌の培養に用いる培地試薬は安価であるが、変動環境を扱う特殊性から少量多種であるため大量のプラスチック製のプレート、チューブ(50本/一実験)を使用し、フィルター滅菌のコストがかかる。研究費は、当初計画通りこれらの培養装置の製造・生物実験に必要な消耗品費に用いる。また、当初計画通り一部は成果発表のための旅費として使用する。
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Research Products
(6 results)
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[Presentation] 遺伝子発現の確率性による環境適応2012
Author(s)
明野優也, 三田弘道, 伊藤洋一郎, 津留三良, 應ベイウェン, 四方哲也
Organizer
第35回日本分子生物学会年会
Place of Presentation
福岡国際会議場・マリンメッセ福岡(福岡)
Year and Date
20121210-20121214
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