2012 Fiscal Year Research-status Report
心筋症関連トロポニン変異体を含む細いフィラメントのサブナノスケール病理診断
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24710255
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
松尾 龍人 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 博士研究員 (60623907)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | トロポニン |
Research Abstract |
本研究の目的は、遺伝性肥大型心筋症の成因の1つである変異型トロポニンを含む心筋由来細いフィラメントの構造解析を通して、疾患発症の原因となる分子構造上の特徴を明らかにすることである。平成24年度は、まず最初の段階として、野生型トロポニンを含む心筋由来細いフィラメントのX線散乱実験を行った。以下に具体的内容を記述する。 屠殺直後の新鮮なウシ心臓を入手し、結合組織を取り除いた後、主に遠心分離によって細いフィラメントを調製した。調製した細いフィラメント溶液を2つに分注し、片方にEGTAを、もう片方にCaCl2を添加することで、それぞれ-Ca状態、+Ca状態の細いフィラメントとした。これら2種類の試料(共に15 mg/mlの濃度)を第三世代放射光施設であるSPring-8のBL45XUに持ち込み、X線小角散乱パターンを露光500ミリ秒で記録した。 測定した散乱パターンから慣性半径を求めると、Caの有無に関わらず3.4 nmであった。+Ca状態と-Ca状態の散乱カーブを前方散乱強度で規格化した後に、+Ca状態から-Ca状態の散乱カーブを差し引くと、散乱ベクトルq=0.6 nm-1付近に大きな強度減少が観測された。この強度減少は、細いフィラメントのトロポニンにCaが結合することで生じるものであり、繊維回折パターン上に現れる第一層線(36 nmの周期に由来する)のスペーシングを円環平均した位置に観測される。第一層線の強度変化は、細いフィラメント上のトロポニンへのCa結合によって主にトロポミオシンが位置を変化させることで生じると考えられている。今回の実験によって、野生型のトロポニンを含む細いフィラメントが示すCaによる構造変化を検出することができた。平成25年度は、変異型のトロポニンを組み込んだ細いフィラメントを調製し、X線散乱実験によって、変異による構造変化の異常を検出する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において、最終的に「研究の目的」を達成するためには、心筋症関連変異を持つ変異トロポニンを細いフィラメントに組み込み、Caによる構造変化が野生型と比較してどのように異なるかを明らかにする必要がある。平成24年度は、その対照として、野生型の細いフィラメントを用いてX線散乱実験を行い、トロポニンへのCa結合による細いフィラメント全体の構造変化を検出した。また、変異型トロポニンを調製するために必要であるトロポニンサブユニット3つの内、2つのサブユニットについて大腸菌による培養を既に開始している。平成25年度は、変異トロポニンを含む細いフィラメントのX線散乱実験を行い、野生型の散乱データと比較することで、変異によってどのような構造変化の異常が引き起こされるのかを明らかにし、「研究の目的」を達成する。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 変異トロポニンを含む心筋由来細いフィラメントの調製 トロポニンを構成する3つのサブユニット(C,I,T)それぞれについて、大腸菌発現系を用いて発現及び精製を行う。本研究で対象としている変異はトロポニンTのK247R及びE244Dであり、これらのプラスミドを大腸菌に組み込み変異トロポニンを調製する。 2. X線散乱実験、及びCa結合による構造変化の解析 1.で調製した溶液試料を-Ca状態と+Ca状態の2つに分類し、それぞれの試料からX線小角散乱パターンを記録する。両者の散乱パターンの差を取ることで、トロポニンへのCa結合による細いフィラメントの構造変化に由来する情報を抽出する。心筋由来細いフィラメントの原子モデルを基に、抽出された構造情報を説明する構造変化を野生型及び変異型トロポニンを含む細いフィラメントの両者に対して明らかにする。これにより、変異導入によって引き起こされる細いフィラメントの構造変化の異常を突き止める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
変異トロポニンの発現及び精製を行うため、それに係る消耗品及びクロマトグラフィー用カラムを購入する。トロポニンは3つのサブユニットからなる複合体であり、それぞれのサブユニット毎に精製方法が若干異なるため、用いる消耗品の種類も異なる。また、実験データ解析後に原子モデルに基づくシミュレーションを行うため、演算性能の高いPCの購入に研究費を充当する。
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Research Products
(1 results)