2012 Fiscal Year Research-status Report
多能性に関する転写機構をオンにするプログラム可能な小分子の開発
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24710261
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
ナマシヴァヤム パンディアン 京都大学, 物質ー細胞統合システム拠点, 研究員 (20625446)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 人口遺伝子スイッチ / 細胞リプログラミング / 小分子 / 合成生物学 / iPS細胞 |
Research Abstract |
クロマチン修飾は、適切な時に適切な場所で遺伝子のONとOFFを制御し、細胞運命を決定する。人工多能性幹細胞(iPS細胞)の技術により、再生医療における様々な応用が提案されているが、安全な臨床利用は実現していない。これを克服する新規の化学的アプローチとして、我々は位置特異的にクロマチン修飾することで細胞運命をコントロールする化合物、SAHA-PIPを開発した。SAHA-PIPは、配列特異的なピロールイミダゾールポリアミド(PIP)と、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤SAHAで構成されている(ChemBioChem, 2011, 12, 2822)。 科研費助成期間において、我々は4つの研究論文と3つの総説により、クロマチン修飾を制御する小分子の発展の可能性を示してきた。まず、異なった化学構造のSAHA-PIPを合成することでSAHA-PIPの効果の向上が可能であることを示した。(Bioorg. Med. Chem., 2012, 20, 2656) さらに、マウス繊維芽細胞においてわずか24時間でOct4を含む多能性遺伝子の10倍以上の発現上昇を誘導し、細胞の初期化を開始させることのできる、δという化合物を設計した(Sci. Rep., 2012, 2, e544)。 また、新たな蛍光分子をPIPに結合させることにも成功した(Bioorg. Med. Chem., 2013, 21, 852)。さらに、HDAC8特異的阻害剤のJAHAや、DNAメチル基転移酵素(DNMT)阻害剤のプロカインをPIPに結合させて新しいタイプの分子を開発し生物活性を調べた(投稿中)。上記の成果に基づき、今後はiPS細胞の臨床利用に向けて、細胞運命を変化させる化合物を設計していくことを目標としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々のプロジェクトは計画通り順調に進展している。位置特異的にエピジェネティック修飾を誘起する新規の小分子化合物を発展させることに成功したのがその理由である。新たに得られた結果から、細胞運命をコントロールする革新的な戦略を発展させる機会を得た。小分子化合物は臨床利用の可能性が高いので我々の結果は非常に重要である。小分子化合物はすでにiPS細胞の誘導に用いられているが、それらは非選択的に働くため、異常な遺伝子・エピジェネティック状態を引き起こす可能性がある。この観点では、配列特異性とエピジェネティックな活性を併せ持つクロマチン修飾PIP(CM-PIP)の設計・合成はiPS細胞の分野において非常に重要である。CM-PIPはエピジェネティックな変化を誘起し多能性遺伝子群を短時間に活性化することができる。昨年度、我々はネイチャーグループの科学雑誌である「サイエンティフィックレポート」での1報を含む、3報の研究論文と3報の総説を発表した。この論文に示されたCM-PIPは、幹細胞の研究や臨床試験にインパクトを与えるであろう重要な研究として、ステムセルポータルに取り上げられた。 また、iPS細胞の臨床応用に影響する主な問題であるエピジェネティックな記憶は、CM-PIPを用いた配列選択的なエピジェネティックリプログラミングによって解決できる可能性がある。PIPには、生物活性を持つ小分子を共有結合させることができるという利点もある。また、CM-PIPにおける業績により、国際シンポジウムで「Royal Society of Chemistry Best poster prize」を、大学の会合では「Cross-disciplinary Research Prize」を受賞した。世界幹細胞サミット2012ではポスター発表を行い、我々の研究が高く評価された。
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Strategy for Future Research Activity |
我々は細胞運命を制御する人口遺伝子スイッチであるクロマチン修飾-PIP(CM-PIP)を発展させることを目標にしている。最近、我々はマイクロアレイ解析を行いクロマチン修飾PIP(CM-PIP)がヒト皮膚繊維芽細胞においてゲノムワイドな遺伝子発現に与える影響を評価した。その結果、各々のSAHA-PIPは精子形成や心形成、神経幹細胞などに特徴的な遺伝子を別々に活性化することがわかった。 しかし、主な障害はCM-PIPの透過性である。この問題に対処するため、最近我々はイソフタル酸を含む新しいタイプのCM-PIPを開発した。この化合物は多能性遺伝子に対してより効果的であった。CM-PIPの特定の転写ネットワークへの選択性にも取り組んでいる。特にヒトでは転写装置は組織や臓器によって異なる。 この問題を解決するため、以前に特定した活性のあるCM-PIPの認識能力を向上させることを計画している。また、以前の計画のようにChIP-シークエンスアッセイを行い、CM-PIPがエピゲノム状態に与える影響について正確な情報を得る予定である。 これまでの結果と上記の計画に基づき、我々は、多因子に関係する遺伝子ネットワークやシグナルパスウェイを調節して、体細胞から多能性幹細胞や完全に新しい種類の細胞を選択的に誘導するクロマチン修飾分子を発展させる所存である
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
クロマチン修飾PIPの合成に必要な試薬にかかる費用は約30万円である。今年度の主な費用はChIP-シークエンス解析のような高コストな実験を実施するのに必要である。申請者の研究室は現在、この実験に必要な設備が充実しているが、実験試薬にかかる費用が非常に大きく、実験を実施して有用なデータを得るのに必要な試薬を用意するには約250万円かかる。また、細胞のリプログラミングに必要な試薬などや、世界的な評価を得たり共同研究を探したりするために業績発表の場として有用な国際会議に出席する旅費は、約58万円に達すると思われる。
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Research Products
(3 results)