2012 Fiscal Year Research-status Report
薬剤標識タンパク質の質量分析を支援するオンラインラマンディテクターの開発
Project/Area Number |
24710267
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
安藤 潤 独立行政法人理化学研究所, 袖岡有機合成化学研究室, 客員研究員 (40623369)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ラマン分光法 / 薬剤標的タンパク質 / 質量分析法 / 表面増強ラマン散乱 / 液体クロマトグラフィー |
Research Abstract |
薬剤などの小分子は、生体内の様々なタンパク質と相互作用することで生体機能を調節している。小分子が標的とするタンパク質を特定し、その結合部位を同定することは、創薬やタンパク質の機能解明において極めて重要である。標的タンパク質の探索や結合サイトの同定には、液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析装置(MS)を組み合わせたLC-MSが用いられる。しかしながら、複雑な混合試料の中から小分子由来の微小な質量シフトを見つけ出すことは極めて困難であった。 本研究では、ラマン分光法を用いて標的分子を含む画分を特定し、LC-MS解析を効率的に行う手法を提案した。LC-MSとの組み合わせに特化したラマン検出装置の開発を行うことで、創薬やタンパク質の機能解明に資する分析装置を構築する。 24年度、装置開発を進めるにあたり、ラマン検出に必要となるLCへの試料注入量を見積もった。ラマン顕微鏡を用い、励起波長やレーザーパワー、照明方法などの測定条件を最適化して検討を行った結果、ラマン散乱光の検出には、通常LC-MSで用いられるボリュームの1000倍を超える1nmol以上の注入量が必要となることが分かった。さらに、LCに用いる溶媒、中でもアセト二トリルから発生するラマン散乱が重なることで、標的とする分子のラマンシグナルの検出が妨害されることが分かった。上記の検討結果から、通常のラマン散乱分光法では、測定感度が主なボトルネックとなり、LCで分画したタンパク質試料をリアルタイムで計測することが困難であることを見出した。次年度、ラマン散乱の検出感度を向上させるため、表面増強ラマン分光法(SERS)の利用を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、ラマンディテクターの開発を進めるにあたり、必要とされる装置のスペックを決定するための種々の条件検討を行った。特に、ラマンシグナルを取得するのに必要なLCへの試料注入量を見積もり、タンパク質の解析で通常用いられる一般的な注入量と比較して、数桁感度が及ばないことを見出した。さらに、溶媒の背景光など、ラマン測定を妨害する因子が存在することも併せて確認した。検討結果を踏まえ、次年度、当初の計画書で盛り込んだプランのとおり、感度が追いつかない場合の代案として、表面増強ラマン分光法(SERS)の利用を検討することとした。 初年度に計画していた装置開発に至らなかったため、計画以上の進展は見られていないと判断した。しかしながら、目的に即した測定感度を得るために、通常のラマン散乱分光法では物理的な限界につきあたることを、詳細な条件検討からつきとめ、計画に盛り込んだバックアッププランに従って、早い段階で軌道修正してSERSの利用へと舵取りをした点が意義深いと考えられる。SERSは極めて強い増幅効果を得られるため、目的に即した感度へ到達できる可能性は高い。今年度に得た知見を元にして、当初の目的に沿った形で次年度の測定装置開発を進展させられることを考慮した上で、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
LC-MSに特化したラマン検出装置、及び測定手法の開発を推進する。24年度の検討から、通常のラマン分光法を用い、LCで分画・送液中の試料からのラマンシグナルをダイレクトに検出することは困難であることが判明した。代案として、表面増強ラマン分光(SERS)法を用いることで、信号を大きく増幅させる方法を検討する。SERSでは、金属ナノ粒子周辺で発生する光増強場が主な要因となって、粒子周辺の分子から発生するラマン散乱が大きく増幅されるため、検出限界濃度を大きく向上して計測できると期待できる。さらに、上記の条件検討をもとに、SERS法を用いた測定に特化したラマン検出装置の開発に舵をきって研究を推進する。LCで送液される試料溶液用流路に金属ナノ構造を配置し、ラマン測定に利用する。流路の金属ナノ構造で発生したラマン散乱光を効率的に捕集・検出する光学系を設計し、ラマン検出装置を実際に作成する。装置開発の進展を見ながら、実際のタンパク質を試料に用い、SERSとMS測定の両輪で解析を行うことで、薬剤標的タンパク質の解析、及び結合サイト同定への応用を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度、装置開発への着手のための研究費を計上していたが、上記のとおり測定感度の問題を見出し、問題克服のための条件検討に注力したことから、装置開発用の予算を次年度に繰り越した。次年度の研究では、前年度の予算と併せて、SERS効果の検討、検出装置・及び検出用流路の開発に研究費を利用することを計画している。具体的には、ラマン散乱の励起用光源、対物レンズ、ミラー、分光用フィルター、レンズなどの光学関連装置・部品への使用を検討している。さらに、装置開発の進展を見ながら、実際のタンパク質試料を用いた測定を行うため、それに用いる試薬やLC-MS用消耗品などに対しても研究費を利用することを計画している。また、SERSの増強因子となる金属ナノ粒子や、金属ナノ構造を形成したSERS基板の購入、ナノ粒子を含む溶液を送液するための送液ポンプにも利用を検討している。最後に、上記装置の開発で得られた成果を広く研究発表するための予算として、国内外への研究成果発表旅費、外国語論文の校閲費、印刷複写費などへの利用も併せて検討している。
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Research Products
(9 results)