2013 Fiscal Year Research-status Report
ポストウェストファリア体制の国家像の模索:欧州辺境の未承認国家の比較研究から
Project/Area Number |
24710292
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
廣瀬 陽子 慶應義塾大学, 総合政策学部, 准教授 (30348841)
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Keywords | 国際情報交換 / アメリカ合衆国 / ロシア / ウクライナ / 南コーカサス / 旧ユーゴスラヴィア / 未承認国家 |
Research Abstract |
本研究では新しい国家像や国家承認のあり方を検討するために、欧州地域の未承認国家を多面的に比較検討することで、世界を不安定化しうる未承認国家問題の現状を明らかにすると共に、その事例から、ポスト・ウエストファリア体制時代の国家像を模索し、新たな国際政治の理論を構築することを目的としている。 本研究は、文献調査と現地調査を主軸として進めているが、平成25年度にはアゼルバイジャンで現地調査を行なった。また、1年間、米国のコロンビア大学・ハリマン研究所で在外研究を行ない、同研究所は旧ソ連・東欧を専門としており、日々専門家と色々な議論をし、教示を受けることが出来た。また、同大学があるニューヨークは移民が極めて多く、未承認国家を抱える国からの移民・難民も多かったため、あらゆる地域の出身者にインタビューを行なった。 これらの調査から得られた示唆は大変有益であり、従来から主張してきた未承認国家と大国の関係についても説得力を持つ立証ができ、米国の研究者からも賛同を受けた。また2013年11月から始まったウクライナの混乱は、2014年3月には同国クリミアのロシアへの編入に至り、世界に大きな衝撃を与えた。このプロセスも未承認国家化を経ており、またこの出来事が、他の旧ソ連の未承認国家、具体的には沿ドニエストルや南オセチアに大きな影響を与える可能性が高いことからも、本問題は現在、非常に注目されている。筆者の研究は先見の明があると大きな評価を受け、取材や執筆依頼が殺到した。クリミアの新しい展開を踏まえ、更なる検証を加えて行く。 なお、平成25年度には2冊の和書の執筆を終え、これから編集者と共に加筆修正や校正を経て、年内に出版予定である。また、英語論文1本が査読論文として掲載され、アメリカスラブ学会で英語論文を発表した他、加えて共著論文(英文)を投稿中である。その他、日本語論文、エッセーを多数執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、当初予定していたアルメニアでの現地調査は出来なかったが、アゼルバイジャンで現地調査をすることが出来た他、前述のように米国で最も古い旧ソ連・東欧の専門研究所であるコロンビア大学のハリマン研究所で一年間研究を行なう事ができたので、最先端の研究対象の研究に日々触れることが出来ただけでなく、世界的に著名な研究者達と議論したり、彼らから様々な教示を受けたりすることが出来た他、様々な未承認国家から難民や移民としてニューヨークに移ってきた人々に多くのインタビューをすることが出来たので、想定以上の多くの研究面での収穫があった。 結果、成果も多く出せた。アメリカスラブ学会(The Association for Slavic, East European, and Eurasian Studies)で未承認国家と帝国の関係についての論文を発表し、高い評価を得ただけでなく、アゼルバイジャンの現代政治と未承認国家についての書籍のそれぞれ第一稿の執筆も終えることが出来た(加筆・修正、校正を経て、年内に出版予定)。また、英語論文を3本仕上げ、1本は既に掲載され、残りの2本(内、1本は共著論文)は現在、英文雑誌に投稿中である。その他、日本語の論文、エッセー、書評なども多数執筆した。以上から、成果発表も十分できたと考えている。 そのため、平成25年度の研究の進捗状況は、内容的には当初の研究計画と若干のずれがあるが、むしろ予定よりも充実した研究活動ができたといえ、研究全体の流れに位置づければ、順調に進展していると評価できるだろう。前述のように、本研究開始時には生じていなかったウクライナのクリミアが短期の未承認国家化を経て、ロシアに編入されたことは、本課題に新たな重要課題を突きつけたが、その状況も踏まえ、研究計画を柔軟に見直し、最終的により良い成果を出していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のようなウクライナのクリミア情勢の急変、すなわちロシアへのクリミアの編入は、冷戦終結後、初めての領土の変更であり、国際政治の学問領域にも大きな衝撃を与えている。 この状況を受け、これまで研究対象にウクライナを入れていなかったが、ウクライナ、そして同問題の引き起こしたロシア、ウクライナの問題によって大きな影響を受ける可能性があるモルドヴァおよび領内の未承認国家・沿ドニエストルは改めて調査対象として重視する必要があると考える。そこで当初は予定していなかったが、ウクライナ、ロシアそしてその周辺国での現地調査を行なう他、ロシアを刺激している米国やNATOなどの調査も進めていきたい。昨年のコロンビア大学での在外研究で、米国の研究者と良いコネクションをたくさん築くことが出来たので、そのような人脈も利用していきたいし、これまでインタビューをした人たちにも継続してコンタクトをとり、調査内容をアップデートして行きたい。 今後はこれまでの方針、すなわち文献調査と現地調査を並行して行なっていくという研究方針を踏襲して、研究を継続していくが、特に、沿ドニエストルやグルジアの南オセチアなどで、これからもクリミアのような状況の急展開が起こりうると考えており、新たな展開が起きたときには、柔軟に研究方針を変え、より新規的かつ社会的に意義のある研究を行なっていく予定である。
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Research Products
(7 results)