2012 Fiscal Year Research-status Report
中国南部との比較にみるベトナム北部の木造建築の独自性とその展開
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24710295
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大山 亜紀子 日本大学, 工学部, 助教 (70459858)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ベトナム / 中国南部 / 木造建築 |
Research Abstract |
平成24年度は、中国南部を中心とした木造建築および両国関係史について国内で入手可能な資料(中国語文献も含む)を収集し、中国南部の木造建築のリストアップおよび、ベトナム北部との建築的・地域的関連性について精査を試みた。しかし、入手した資料では中国南部における建築の全体像や細部情報を把握するには制約があったことから、初年度の研究計画の主軸を文献資料の収集・分析から、現地調査による中国南部の事例の基礎資料収集に変更した。また、初年度の現地調査はベトナム・中国国境沿いの地域を中心に行う予定であったが、広範にわたる現地調査による基礎資料収集を目的として、宋代(中国南部最古)から清代に造営された、中国南部沿岸の上海、江蘇省、浙江省、福建省、広東省、江西チワン族自治区に点在する28寺廟の木造建築(100棟以上)のゼネラルサーベイを実施し、各建物の平面や細部などを中心に記録をおこなった。 中国南部の寺廟建築は、平面の規模拡大に伴って軒周りの組物や小屋組形式に変化がみられたが、明・清代以降の大幅な改造や部材の取り替えが著しく、創建時の状態を正確に把握することは容易ではなかった。しかし、中国南部における宋代の建築には、礎盤、詰組の手法、頭貫・台輪などの部材を採用する他、軒周りの組物手法に特徴があること、また、柱間寸法と詰組との関連から、桁行・梁行の全長を優先して柱間寸法を決定している可能性があることなどが明らかになった。ベトナム木造建築との関連をみると、中国南部各地の寺廟の要素(小屋組、梁・束・垂木の形状など)との類似点が部分的に認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的はベトナムにおける木造建築技術の展開および独自性の再検討を試みるもので、その主軸は以下の3点に集約される。①建築史・仏教史などの既往研究による関連遺構(地域)の精査と特定。②基礎資料充実のための中国南部およびベトナムにおける遺構調査。③基礎資料にもとづく関連遺構の比較。 1年次は①と②(中国南部の現地調査)を中心に実施した。ゼネラルサーベイにより中国南部における28寺廟の木造建築に関する基礎資料を収集し、全体および細部の把握、2年次に向けての詳細な分析と調査事例の選定が可能になった。これまでに調査を実施した主要寺廟は以下のとおりである。 《上海市》真如寺正殿(元)、《江蘇省》保聖寺大殿(北宋)、玄妙観三清殿(南宋)、雲巌寺二山門(北宋)、揚湾廟正殿(元)、《浙江省》天寧寺大殿(元)、国清寺、保国寺大殿(北宋)、阿育王寺(清末)、天童寺大殿(明)、《福建省》陳太尉宮大殿(宋)、華林寺大殿(北宋)、湧泉寺天王殿(清)、玄妙観三清殿(北宋)、承天寺大雄宝殿(清)、孔廟大成殿、崇福寺大殿(明清)、開元寺大雄宝殿(明)、天后宮大殿(清)、南山寺大雄宝殿(清)、《広東省》梅庵大雄宝殿(明清)、徳慶学宮大成殿(元)、海憧寺大雄宝殿(清)、五仙観后殿(明清)、光孝寺大雄宝殿(清)、番禺学宮大成殿(清)、南海神廟寝殿(清)、《江西チワン族自治区》経略台真武閣(明)
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Strategy for Future Research Activity |
2年次の研究計画は、1年次に収集した基礎資料のさらなる分析と、新規調査事例の選定および現地調査の実施である。 まず、本研究の3つめの主軸である③「基礎資料にもとづく関連遺構の比較」については、今後も柱間寸法の構成手法や各部材の形状などを中心に分析を進める。とくに、中国南部における木造建築技術に関する体系的な編年は既往研究等で確認できていないため、まずは既往研究および基礎資料の各事例の精査・分析により、中国南部における各時代の建築技術的特徴と展開を概観することが2年次の成果目標の一つである。とくに、ベトナムに現存する木造遺構は、明・清代に造営されていることから、この時期の事例を中心に分析を進める。また、両者には小屋組、梁・束・垂木の形状などとの類似点が部分的に認められ、組物の手法なども含めて、ベトナムとの関連性について考察をさらに進める。 この分析と平行して調査事例の選定および現地調査の実施も2年次の主要計画の一つである。今後も、新規の調査対象を増やすとともに、1年次に見送りしたベトナム・中国国境沿いの地域において調査を実施したい。 その上で、本研究の目的であるベトナム木造建築の独自性と展開について総合的に検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
《設備備品費》中国・木造建築関連図書の購入費を計上。 《消耗品費》初年度に購入予定だった現地調査に使用するPCおよびソフトウェア等の購入費を計上。 《国内旅費》調査打ち合わせおよび資料収集、報告会による交通費を計上。 《国外旅費》研究資料の制約上、海外での現地調査が本研究の主軸の一つとなるため、外国旅費の占める割合が多くなる。また、現地での効率的な資料収集には、研究協力者を含めた複数名での作業が必要不可欠となることから、海外旅費には研究協力者の渡航滞在費も含まれる。今年度はベトナム・中国国境沿いの地域を調査対象とする予定である。 《謝金》調査成果の整理や資料翻訳などについて、研究補助者への謝金を計上。 《その他》資料複写、論文投稿、報告書作成の費用を計上。
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