2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24710297
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田中 周 早稲田大学, アジア研究機構, 助手 (10579072)
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Keywords | ウイグル / 新疆 / 中国 / 民族問題 / 歴史認識 / 国家統合 / 中国共産党 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
本研究の目的は、中国新疆ウイグル自治区の民族問題を、歴史認識の面から検証することである。なぜウイグル族と漢族との間で衝突が生じるのか。この問いに答えるために、現代中国においてウイグル族の歴史が、体制側と少数民族側でそれぞれどのように語られてきたかを考察し、この二つの「歴史」の相克を軸に、新疆の民族問題を捉え直す。 初年度にあたる平成24年度は、主に、体制側によって語られるウイグル族の歴史がいかに変遷してきたかを、文献調査および中国での現地調査によって考察した。加えて、ウイグル族によって語られるウイグル史に関する調査を、現地調査を中心に行った。結果として、中華民国期(20世紀前半)、中華人民共和国建国初期(50年代)、改革開放期以降(80年代以降)と時代が進むにつれて、体制側によるウイグル史が漢族中心の歴史観に移行していく様を確認した。 平成25年度は初年度の研究実績をもとに、文献研究を中心にウイグル族自身の歴史認識に関する研究、特に1980年代以降のウイグル史の再構築について考察した。結果として、新疆への漢族の大量流入、漢語化が進む現状に対し、民族アイデンティティ喪失の危機意識を持つウイグル族知識人たちが主導した、自民族の歴史を発掘し、再構築するための諸活動を確認した。彼らよるウイグル民族史を題材とした作品の生産はその代表例であり、これら著作のナラティブ分析も進めた。ここで得られた知見は、次年度(最終年度)に本研究を総括する上で必要不可欠で重要な意義を持つ。 最後に、以上の研究成果の一部を2冊の編著に反映した。①田中周「民族名称「ウイグル」出現と採用」-「回」から「維吾爾」へ」鈴木隆・田中周編『転換期中国の政治と社会集団』国際書院、2013年10月刊行。②毛里和子・澤井充生・田中周編『中華人民共和国と少数民族-「周縁」からみた国民統合の過去・現在・未来』勉誠出版、近刊予定。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクト2年目にあたる平成25年度は、特に、1980年代以降のウイグル族によるウイグル史の再構築について考察することを目的とした。この研究目的遂行のために課したタスクは、①「収集」、②「研究」、③「発信」の3つであった。 ①「収集」では、日本国内の各研究機関、書店を通じて、ウイグル族によって著された歴史文献(二次研究文献も含む)、体制側のナショナル・ヒストリーに関する文献を中心としたウイグル語・中国語の関連資料の収集に努めた。 ②「研究」では、収集した文献、および初年度の現地調査で収集したインタビュー内容を元に、資料分析、ナラティブ分析を行った。一年間の研究活動を通じて、民族アイデンティティ喪失の危機意識を持つウイグル族知識人たちが、1980年代に主導した民族文化復興現象の動態を把握できたことは第一の成果であった。またこの成果の一端を、「仙人の会6月例会」において「中国共産党による新疆の軍事統合」というタイトルで報告した(詳細は「研究発表」欄を参照)。 ③「発信」では、本プロジェクトの研究成果を公開することを目的としたHP「田中周研究室」(詳細は「備考」欄を参照)を開設し、成果を広く社会に公開・還元する場の整備を行った。 ただし、当初の計画を変更した点が2点ある。一つは、中国およびカザフスタンでの現地調査の実施時期を平成25年度から最終年度としたことである。これは最終年度により確実な研究成果を得るために、フィールドワークに向けた準備・基盤研究を慎重に行った結果である。また、編著を一冊刊行し、さらに別の編著も近刊予定であることは大きな成果であるが、ウイグル族知識人たちの意識と動向に関する論文を発表できなかったことは反省点である。この点も最終年度の課題とする。以上、若干の計画変更は存在するが、成果は着実に蓄積しており、本研究課題はおおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成26年度は特に、ウイグル族自身の手によって語られてきたウイグル史に関する歴史書・歴史小説のナラティブ分析、および現地インタビュー調査を行い、20世紀以降の思想的系譜を明らかにする。更に3年間にわたる本研究プロジェクトの総括として、ウイグル族と漢族(体制側)の歴史認識の相克を分析することで、20世紀を通じて両者が「歴史」をいかに語り、そして利用し、歴史認識の差が民族間の軋轢・衝突の助長にいかに作用してきたかを考察する。具体的には以下の3つタスクによって、研究を推進する。 ①「収集」:中国およびカザフスタンで、文献調査、インタビュー調査を実施する。訪問先は、中国ではウルムチ市、カシュガル市、イリ市、カザフスタンではアルマアタ市である。具体的な用務先は、新疆ウイグル自治区地方志編纂委員会、政治協商会議自治区委員会、新疆教育出版社、新華書店、カザフスタン共和国教育科学省東洋学研究所、古書店などを予定する。カザフスタンに赴く理由は、亡命ウイグル人によるコミュニティーが存在し、彼らによって中国国内とは異なる自由な言論活動が行われ、歴史に関する文献の出版活動も盛んなためである。また前年度に引き続き、国内でも文献収集を継続する。 ②「研究」:3年間で収集した文献、インタビュー内容の分析を通じて、本研究で設定したテーマの解明に努める。研究の中間報告を、2014年夏にオーストラリア国立大学で開催される国際ワークショップにおいて、また研究の総括報告を、2015年2月末に東京の東洋文庫で開催される国際会議で行う予定である。 ③「発信」:平成25年度に開設したホームページ上で、引き続き日本語と英語による研究成果の公開・発信に努める。また、上記2つの国際会議において、国内外で英語による研究成果の発信を行う予定である。最終的に、本研究プロジェクトの総括を論文の形で刊行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の未使用額は、167,202円であった。次年度使用額が生じた理由は、中国およびカザフスタンでの現地調査の実施計画時期を平成25年度から26年度に変更したことにある。これは、より確実な研究成果を得るために、フィールドワークに向けた準備・基盤研究を慎重に行った結果であり、海外出張費を最終年度に残すために意図的に予算を残した次第である。 平成26年度の研究予算(直接経費)は、合計で「667,202円」となる。以下に研究費の使用計画の内訳を示す。 ①文献購入費:「中国史、ウイグル史に関する歴史文献および二次研究資料(ウイグル語および中国語)購入費」として「227,202円」を予定する。②専用ホームページの年間運営費として「50,000円」を予定する。③中国およびカザフスタンで実施する現地調査のための外国旅費として「250,000円」を予定する。④海外現地調査で実施するインタビューでの協力者への謝金として「20,000円」を予定する。⑤インタビューなどで得られたデータ整理などを行うバイトの謝金として「20,000円」を予定する。⑥消耗品費(PC関連機器等の購入)、およびその他雑費(文献複写代・製本代など)として「100,000円」を予定する。以上の使用計画により、最終年度(平成26年度)の研究を遂行する。
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