2012 Fiscal Year Research-status Report
相互依存性(inter―dependency)の哲学に基づく新たな人格論の構築
Project/Area Number |
24720001
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
池田 喬 明治大学, 文学部, 講師 (70588839)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | ケア / 依存 / フェミニズム / 現象学 / 人格 |
Research Abstract |
平成二四年度は「相互依存性の哲学」の調査・研究を進めた。その研究・調査は、(1)主要文献と応答論文のサーヴェイ調査による理論的原理の抽出、(2)その理論的背景の解明の二段階で進められた。 (1)I. ヤング、N. フレーザーらのフェミニストの論者における依存概念の議論と、E. キテイ、M. ヌスバウムらの病/障害の哲学の研究に取り組んだ。彼女たちによる依存概念への注目は、自律性の理念に一面的に依拠した道徳理論、福祉政策論、政治思想の問題点を指摘し、他者への依存者や依存者へのケア提供者が社会的に孤立したり資源の分配において不利になったりしない政治体制の構想に結びついている。(2)そこで、福祉や分配についての現代政治理論の研究に従事した。特に上記の論者が原則的に意見を共有する功利主義批判の理解を深めるべく、B. ウィリアムズやJ. ロールズなど、代表的な功利主義批判者の著作に取り組んだ。(3)なお、上記の議論を、研究代表者の従来の専門領域である現象学に関連づけることも試み、M. ハイデガーの「気づかい」の概念とケアの関係、また、E. フッサールやM. メルロ=ポンティの哲学を理論的基盤として最近盛んになってきたフェミニズム現象学と上記論者の政治哲学の関係を研究した。 平成二四年の本研究は、フェミニズム、病/障害の哲学、政治哲学、現象学といった多様な研究領域をケアや相互依存性の概念を軸にして取りまとめたが、このような成果は従来の研究には見られなかったものである。本研究の意義と重要性は、ケアや相互依存性の哲学という一つの理論的核を抽出したこと、この観点に基づいて大局的な視点を得たことにある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通り、主要文献と応答論文のサーヴェイ調査による理論的原理の抽出とその理論的背景の解明の二点に渡って「相互依存性の哲学」の調査・研究を進めた。また、次年度以降の研究内容である「相互依存性の哲学の臨床的裏付け」や、病/障害の哲学における「現象学的アプローチ」の研究も部分的に取り組むことができた。その成果は、論文「死に至る存在としての人間---ハイデガーとケア」の公刊や、スウェーデン・ウプサラ大学のジェンダー研究所における発表「"Body and Needs: Some perspectives on how phenomenology of female body may prove useful for feminist political activism"」にすでに結実している。 なお、相互依存性の中で構成される人格の概念を提出する発表を日本哲学会または日本倫理学会で行うことが平成二四年度内に計画されていたが、これについては平成二五年度の日本哲学会大会で行うことが決定している。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成二五年度は、予定通り、まず前半に、相互依存性の哲学の臨床的裏付けの作業に入る。特に国内において、さまざまな障害をもつ当事者が自らの体験や生を共同で研究する障害当事者研究と呼ばれる研究実践が広がっているが、その実践と知が、相互依存性の哲学に対してもつ意義を見定める。その際、文献研究だけでなく、障害当事者研究を実践する障害当事者であり研究者である人たちとの学術的対話を実現させていく予定である。 後半では、これも当初の予定通り、相互依存性の哲学を「新たな人格論の構築」へと展開し、その理論を最新の議論状況の中で提示していくために、特に英米分析系の心の哲学において盛んになってきた精神疾患の哲学を調査研究する。このタイプの議論においては、人格が満たすべき条件を神経科学などの知見を基づいて正確に規定しようとする傾向があるが、この議論が原則的に前提している「自己の同一性の意識」という人格存在の条件規定を「相互依存性の哲学」と比較考察し、正確に評価する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|
Research Products
(3 results)