2013 Fiscal Year Research-status Report
相互依存性(inter―dependency)の哲学に基づく新たな人格論の構築
Project/Area Number |
24720001
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
池田 喬 明治大学, 文学部, 講師 (70588839)
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Keywords | 現象学 / フェミニズム / 依存 / 人格 / 住まい / 当事者研究 |
Research Abstract |
平成二五年度は、(1)前年度の「相互依存性の哲学」の調査・研究の成果を臨床的に裏付ける作業と、(2)現在特に英語圏で盛んな障害や疾患の哲学のサーヴェイ調査を行った。(1)については、国内の「当事者研究」と呼ばれる障害や疾患の当事者による自己研究に関する調査を、このテーマに関連する各種の催しや会議への参加および出版物のサーヴェイを通じて進めた。(2)については、まずは生命倫理学における人格概念の批判的検討を進めた。P. シンガーおよびJ. マクマハンといった功利主義者のパーソン概念に対して、認知障害をもつ子どもの親の立場から彼らに批判するE.キテイの議論を中心に研究した。障害と疾患の哲学についてはOxford University Pressの「International Perspectives in Philosophy and Psychiatry」シリーズの一部に取り組んだ。 平成二四年度の本研究は、相互依存性やケアの概念を軸として、フェミニズム、病/障害の哲学、現象学、政治哲学を取りまとめることに特徴があった。平成二五年度の本研究は、これらの概念を深く考察するために、国内の当事者研究や家族の立場からの問題提起など、より現場に密着した立場からの研究や問題提起を取り込むことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通り、相互依存性の哲学の臨床的裏付けを進めることができた。その成果は、(1)国内の当事者研究に関する研究に関するものと、(2)現代の倫理学における人格概念の扱いに関するものに大別される。 (1)(A) ヤングやフレイザーなどのフェミニズムと論者による依存概念を、統合失調症やアルコール依存症に関する日本の当事者研究における自立/依存論に接続する論文「Body and Needs: Some perspectives on how phenomenology of female body may prove useful for feminist political activism」を発表した。 (B) 自立/依存の議論にとって重要な「家」の概念に焦点を絞って、ヤングにおける家に居ることの現象学と日本の障害者自立運動における「家」の用法を接続して議論展開した論文「道徳的主体性と環境依存性の問題」を発表した。 (C)(2)の論文を掘り下げた内容をドイツ語訳し、2013年9月27日にウィーン大学で口頭発表した(タイトル:Das Zuhause als uebersehener Ort des Denkens: Eine feministische-phaenomenologische Perspektive zum Thema )。なお、この発表原稿は、国際誌「Polylog-Zeitschrift fuer interkulturelles Philosophieren」第31号に掲載予定である。 (2)(A) 第七二回日本哲学会の公募ワークショップ「「理性をもつ動物」とは誰か? ― 「人格」概念への現象学的アプローチ―」で、P. シンガーとJ. マクマハンに対するE. キテイの批判をM. シェーラーやM.ハイデガーという古典現象学の概念装置を用いて解釈する発表を行った。(B) これに関連する内容を含む英文のコメンタリー論文が公刊された("Commentary: On Crosssing the Line between Human and Nonhuman: Human Dignity Reconsidered") 以上のようにおおむね順調に研究は進んでいる。現在の障害と疾患の哲学に関するサーヴェイ調査・研究は、当初の研究計画に従い、平成二六年度も継続して行う。
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Strategy for Future Research Activity |
平成二六年度は、研究計画の予定通り、その前半に、障害と疾患の哲学の研究を完了させ、後半では、三年間で得られた知見を総合し、相互依存性の哲学に基づく新たな人格概念を最終的に構築していく。その成果を論文にまとめることが第一の目標である。 この概念的作業は、これまでの研究成果から明らかになった通り、特にフェミニズムと現象学の出会いによって可能になるものであり、最終年度の研究は、「フェミニズム現象学」の立場の明確化と紹介というかたちもとる。
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Research Products
(5 results)
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[Book] 「倫理」における「主体」の問題2013
Author(s)
仲正昌樹、望月由紀, 吉沢文武, 中村哲平, 河田健太郎, 入江俊夫, 坂倉涼, 木村正人, 杉本俊介, 池田喬, 菊地夏野, 大澤聡, 清家竜介
Total Pages
295 (207-227)
Publisher
御茶ノ水書房