2013 Fiscal Year Research-status Report
アリストテレスの存在論における「本質」と「現実態」の哲学的意義に関する研究
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24720015
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岩田 圭一 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (00386509)
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Keywords | 存在論 / 実体論 / 本質 / 現実態 / 可能態 / 質料 / 形相 / 感覚 |
Research Abstract |
本研究の目的は、アリストテレスの存在論における「本質」と「現実態」の哲学的意義を明らかにすることにある。そのためには『形而上学』中核諸巻(ΖΗΘ巻)における実体論、その中でも「本質」と「現実態」が重要な役割を果たしている箇所を取り上げて考察する必要があるが、本年度は、「現実態」概念について深い理解を得るために前提となる「可能態」概念について再考するとともに、『魂論』第2巻第5-12章における感覚一般と個別的感覚に関する見解を取り上げ、感覚論における「可能態―現実態」の対概念の用法を明らかにした。 「可能態」概念の再考にあたっては、『形而上学』Θ巻第1-5章におけるデュナミス論において、能力としてのデュナミスから可能態としてのデュナミスが明らかにされていく過程を辿り、そこにアリストテレスの関心の移行を読み取るという仕方で、「可能態」概念が明示される道筋に一定の説明を与えた。その上で、「可能態」が質料に適用されることの意義について考察を行い、アリストテレスの実体論におけるデュナミス論の意義を明らかにした。 感覚論の考察にあたっては、個別的感覚がその対象を受容して感覚が成立する際にその感覚が「性質的変化」とみなされていることを問題として取り上げた。この「性質的変化」に関して解釈者たちは、感覚器官の側で物理的な変化が起こっているとするか、あるいは魂において形相的な変化が起こっているにすぎないとするかで分かれている。本研究では、「可能態-現実態」が感覚の問題に適用される仕方に注意して当該のテクストを注意深く読解し、後者の解釈がアリストテレスの感覚論の解釈として適切であるという見通しを得るに至った。 なお、本研究で感覚論を取り上げたのは、今後の研究で取り上げる知性論――これは「本質」概念が問題にされる点で存在論と密接な関係にあると考えられる――の理解にとって不可欠だからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、『形而上学』中核諸巻の実体論における「本質」と「現実態」について、実体論の観点から考察するだけでなく、『魂論』における感覚論および知性論の観点から考察することも課題としている。本年度は、『形而上学』Θ巻第1-5章におけるデュナミス論を再考の対象として取り上げ、「可能態」概念がどのようにして明確にされているか、そしてその概念が質料に適用されることにどのような意味があるかについて理解を深めた。さらに、『魂論』第2巻第5-12章における感覚論を取り上げ、存在の問題とは異なる領域において「可能態―現実態」がどのように用いられているかを、感覚論における個別的な問題――「性質的変化」の問題――の考察を通じて明らかにした。本年度におけるデュナミス論の再考は、実体論の文脈における「現実態」としての「本質」ないし「形相」について理解を深め、その哲学的意義を考察するための準備として、有益な作業であった。また、感覚論における「性質的変化」の問題を取り上げたことは、『魂論』第3巻に見られる知性論の理解のための準備として不可欠な作業であった。知性論において知性の対象として取り上げられる「本質」は、『形而上学』Θ巻の最後の章においても言及されている。これは実体論と知性論との一定の関係を示していると解釈されうるが、この点に関する研究の準備が本年度の研究によって整った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、実体論における「本質」と「現実態」の哲学的意義を明らかにするために、実体論全体を俯瞰することによってそれらの概念が他の形而上学的諸概念とどのように関係しているかをあらためて明確にし、これまでの実体論の研究を総括することにしたい。それと同時に、感覚論および知性論における「可能態-現実態」の対概念および「本質」概念について一定の理解をすることを目指し、とくに「本質」概念の明確化の中で実体論と知性論との接点を明らかにすることにしたい。これによって、「本質」と「現実態」の哲学的意義が明らかになると予想している。 具体的に述べると、まず、実体論の研究の総括としては、これまでの研究成果を再検討するとともに、アリストテレスがその実体論から除外している「付帯的に〈あるもの〉」と「真としての〈あるもの〉」とが、『形而上学』ΖΗΘ巻に入る前の箇所で除外されている事実について、一定の説明を与えることにする。それから、知性論における「本質」概念の明確化については、『魂論』第3巻第4-6章のテクストを中心にして考察し、これとの関係で『形而上学』Θ巻第10章における「真としての〈あるもの〉」に関する論述を取り上げ、「本質」概念について理解を深めることにする。また、アリストテレスの計画では実体論から除外されている「真としての〈あるもの〉」が実体論の末尾に位置していることの意味についても考察し、実体論と知性論の両方において重要な役割を果たしている「本質」概念の哲学的意義を明らかにすることにしたい。
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Research Products
(2 results)