2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720021
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
加藤 眞司 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (60553047)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 蘇軾 / 経学 / 義利観 / 政治 / 北宋 |
Research Abstract |
本年度は、中国思想史上の命題のひとつである義利観の分野において、蘇軾が如何なる見解を提示しているか、『東坡易伝』『論語説』『書伝』を中心に経書解釈に関する蘇軾の著作をもとに考察した。 蘇軾は、『易』乾卦文言伝の句「利者義利之和也」等を根拠に義利観を構築し、義と利が共に矛盾無く両立し、一体化するものであり、また、政治的観点から分析すると、支配者階級の利益より、民の利益を優先することが国家の義であるという論理構造が形成されている。この見解は、王安石の新法に対する批判とも連動している。つまり、蘇軾の義利観は、観念的な概念ではなく、当時の社会・政治の現実を分析して構築した見解とも言える。 また、『書伝』の記述を分析すると、蘇軾は、民が愚者であり、彼らの欲求を満たすことができなければ、国家が不安定になり、滅亡という事態を招く可能性があるので、民に利を与える必要があると考えている。つまり、彼の義利観は、利を天下万民を統治するための道具として捉えていることがわかる。彼の政治的活動や主張等から、先行研究において、蘇軾が民主的な人物である等と主張する論述が時に見られるが、経書解釈に限って言えば、このような主張が必ずしも正しいとは言えないこともわかった。 更に、蘇軾の義利観と、父蘇洵の義利観と弟蘇轍の義利観を比較してみたところ、三蘇の義利観は、義と利が共に矛盾無く両立し、対立するものではないということが共通認識であるが、利益追求より道徳規範の実現を優先すべきという「重義軽利」という儒家の伝統的義利観のように、殊更、道徳性に依拠したものではない。但し、三蘇の義利観の内容については、大きく異なる。蘇洵の義利観は、人を利益誘導するという主体性が現れており、蘇軾・蘇轍の義利観は、為政者による利の放棄、或いは無私という点でやや主体性が薄く見えるが、常に民の利を意識していることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
蘇軾の経学と経学に見える義利観を研究し、彼の経世思想との思想的関連性を考察することは達成できたと考えられる。しかし、蘇軾と北宋諸学者との思想的関連性の分析に関しては、不十分な点があった。蘇軾の義利観と司馬光・王安石の義利観との思想的関連性については検証できたが、他の士大夫、特に北宋前期の士大夫と洛学の程頤との比較・検証までは研究が及ばなかった。但し、最終年度で行う予定であった、蘇軾の義利観と、父蘇洵・弟蘇轍の義利観との比較・検証を初年度に行うことができた。 また、『三蘇全書』(全二十冊、語文出版社、2001年)所収の『論語説』の分析は、佚文の集録漏れ、誤字脱字や典拠の誤りの確認に関しては一定の成果を挙げることができたと思われるが、既に集録済みの佚文の内容を検証することに関してはやや不十分な点があった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度においては、蘇轍の経学と義利観を、「五経論」『春秋集解』、『詩集伝』に即して考察する。「五経論」に関しては、蘇軾にも「五経論」が存在し、蘇軾「五経論」と蘇轍「五経論」は、若干の字句の異同が存在するが、その文章と内容は同じであり、どちらの著作か判別が難しく、「五経論」のテキストの帰属を調査する必要がある。上記のことに留意しながら、蘇轍の経学と経学に見える義利観を研究し、彼の経世思想との思想的関連性を考察する。 翌々年度においては、蘇洵の義利観に関して、拙稿「蘇洵の経学」(『中国哲学』2007年)で提示した論点を踏まえて再検討をする。蘇洵には、特定の経書に対する解釈書が存在しないため、蘇洵の文集である『嘉祐集』に集録されている文献を分析し、蘇洵の経学を考察する。 蘇轍・蘇洵共に、二人の思想と北宋諸学者の思想的関連性を分析し、彼らの経学とそこに見える義利観の特色をそれぞれ明確にし、二人の経学が持つ時代的意義を考察する。 上記の作業を終えた後、三蘇の経学について義利観をひとつの指標として整理し、父子兄弟間の思想的関連性を考察する。また、その成果から、三蘇の主張が相違する点からは三者の各々の経学の特色を、共通する点からは三蘇が持つ全体的な特色を、それぞれ明確にする。三蘇の経学の北宋の経学における位置づけを行い、時代的意義を再考する。 さらに、三蘇父子(父蘇洵と子の蘇軾・蘇轍兄弟)の経学の特色と相互の関連性、及び北宋期の学術・思想情況の中における三蘇の経学の思想的位置付けに関する研究について、得られた結果を取りまとめる。 義利観を考察するに当たり、人間に対する見方、即ち性説との関連性を考察する必要性が新たに生じた。その分析に当たっては、三蘇や北宋士大夫の著作をもとに分析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に研究費の未使用額が発生しているが、年度末の3月21~23日の間に実施した国立国会図書館における資料調査にかかった経費の会計処理が翌年度4月に行われたためである。
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Research Products
(1 results)