2012 Fiscal Year Research-status Report
仏教論理学とジャイナ教論理学の比較研究:アルチャタとジャイナ教徒の対立と相互交渉
Project/Area Number |
24720029
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
志賀 浄邦 京都産業大学, 文化学部, 准教授 (60440872)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 仏教論理学 / ジャイナ教論理学 / アルチャタ / アカランカ / パートラスヴァーミン / 内遍充 / 実体と様態 / 推理論 |
Research Abstract |
本研究全体として目指していることは、ジャイナ教徒と仏教徒それぞれが保持する認識論・論理学に関する文献を比較・対照することにより、両学派の論理学体系の共通点と相違点を明らかにすることであるが、具体的には、特に仏教論理学者アルチャタとその著作を取り上げ、彼の思想的立場とジャイナ教論理学説の関係性を探ることを主要な目的としている。当初の研究計画では、平成24年度の研究課題は「パートラスヴァーミンとアルチャタの関係」を考察することであり、今年度はこの課題の研究に絞る予定であったが、次年度に取り組む予定であった研究課題「ジャイナ教思想に対するアルチャタの立場」との内容的な関係も深いため、予定を変更して両方のテーマを同時並行的に進めることとした。 今年度実施した研究の成果については、平成24年9月に大谷大学で行われたジャイナ教研究会において発表する機会を得た。(発表題目は「ジャイナ教諸論師とアルチャタの対立と相互交渉」)当発表において、ジャイナ教の諸論師とアルチャタは存在論をめぐる諸問題に関しては「対立」するものの、推理論および遍充論においてはむしろ類似する思想を保持しており、両者の間に「相互交渉」あるいは何らかの影響関係があったのではないかという仮説を提示した。両者の「対立」については、アルチャタ著『論証因一滴論注』に見られるジャイナ教独自の思想を批判する部分のテキストを校訂・翻訳し、アルチャタが想定していたジャイナ教徒の見解がいかなるものであるかについて考察した上で、それがどの時代に属し、どの論師の見解に近いか等の点について検討した。「相互交渉」の点については、パートラスヴァーミンとアルチャタの見解の類似性を指摘するとともに、アルチャタとアカランカの前後関係について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究目的は、「パートラスヴァーミンとアルチャタの関係」について考察することであったが、具体的には、アルチャタがパートラスヴァーミンを知っていたかどうかについて検討することであった。この問題については、両者が、論証因の三条件を満たすにもかかわらず正しい推理とはならない例として、同じ推論式を挙げており、議論の展開の仕方も類似していることから、アルチャタがパートラスヴァーミンを知っていた可能性は高いという結論に至った。しかしながら、この点については直接の引用関係が確認できるわけではないため、さらなる精査を要する。また上述の通り、今年度は、当初予定していた研究テーマ「パートラスヴァーミンとアルチャタの関係」についての考察と来年度に実施予定であった研究テーマ「ジャイナ教思想に対するアルチャタの立場」の考察に同時並行的に取り組んだ。そのため結果的に、研究全体としては当初の計画以上に進展している。これは、平成24年9月に行われたジャイナ教研究会において口頭発表を行うにあたって、ある程度まとまりのある内容を扱うとともに、アルチャタとジャイナ教徒の関係について幅広い視野から総合的に考察を加える必要があったことにも起因している。アルチャタによる『論証因一滴論注』の中のジャイナ教思想が紹介されている部分については、概ね読解と翻訳を終えているが、細部において不明な点や保留とした点を残している。来年度はひき続きこれらの点について検討していきたい。また、今年度の研究テーマに関わるテキスト(『論理学小論前主張要約』「自分のための推理」章および『真理綱要』「推理の考察」章)の校訂および翻訳については、さらなる精査を要する部分を残しているため、継続的に作業を続ける予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上にも述べた通り、今年度は、平成24年度と平成25年度の課題を同時並行的に進めているため、アルチャタとジャイナ教徒との関係を多角的な視点から捉えられるというメリットがある。そのことにより、両者の関係についての包括的議論が可能になる。しかしながら、特にテキスト校訂と翻訳を主とした研究の細部において曖昧な点や保留にしている点が多いことも事実である。そのため、平成24年度に完成させる予定であったテキストの校訂と翻訳を見直すなど、2つの研究テーマの間を柔軟に行き来する姿勢で臨む必要があるだろう。平成25年度はまず、平成24年度にジャイナ教研究会において発表した口頭発表原稿に加筆・修正を加えた上で英訳し、『ジャイナ教研究』に寄稿する予定である。その後は、アルチャタの著作『論証因一滴論注』に見られるジャイナ教学説について、テキストを再度読み直し、より正確なテキスト校訂と翻訳を完成させたい。このジャイナ教説に対するアルチャタの反論は、アカランカの著作『論理の決定』第1章に対するヴァーディラージャスーリ注にも引用され、解説が加えられている。この部分の電子テキスト・校訂テキスト・翻訳を作成するとともに、これら両著作の関係性について考察する。また『論証因一滴論注』に見られるジャイナ教学説は、仏教徒がジャイナ教徒の見解をいかに理解していたかを知るための貴重な資料である。実体と様態の差異と同一性が同時に可能であることを主張するこのジャイナ教学説と他の仏教論書に紹介されるジャイナ教学説とを比較することによって、その思想史的位置づけを図りたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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