2012 Fiscal Year Research-status Report
18世紀フランスの静物画研究―美術愛好家の展示空間の視点から
Project/Area Number |
24720044
|
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
船岡 美穂子 東京芸術大学, 大学院美術研究科, 専門研究員 (90597882)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 18世紀フランス / シャルダン / 静物画 / 美術愛好家 / アート・コレクション / 展示 / 美術史 |
Research Abstract |
本研究の目的は、18世紀後半のフランスの美術愛好家の蒐集内容とその展示空間を再構成し、当時の鑑賞方法と静物画の作品制作との相互の影響関係を明らかにしようとするものである。 初年度にあたって、文献資料と画像の収集に努め、シャルダンとヴァレイエ=コステルの静物画作品の所蔵者を中心に調査した。その結果、蒐集内容・展示方法において先進的であったラ・リヴ・ド・ジュリ、コンティ、リヴォワに着目した。特に、コンティに関して言えば、ビュスマンによる最新の研究(2012)で重要な史料が公刊されたため、当初の研究計画を変更してその検討に重点を置いた。これらの蒐集家たちは、同時代フランス派の絵画を熱心に蒐集し、主題ごとによる伝統的な展示法ではなく、流派ごとの展示法、つまり静物画を含めた様々な主題の絵画をまとめて展示する傾向が強い点で重要である。 このことは、サロンの展示法とも影響関係にあった可能性が高い。シャルダンが1755年から73年までサロンの展示責任者を務めたことは、先行研究では等閑視されてきたが、静物画家が作品展示に深く関与した事例として重要である。異なる画題の作品を組み合わせることで、観者は自ずと全体の調和を鑑賞し、作品を比較しやすくなったと考えられる。とりわけ、静物画作品を観者に最も近く、かつ眼の高さに配置することで、絵画技法を具に鑑賞することができ、造形に対する評価の高まりに結びついた可能性がある。以上のことは、次年度も引き続き調査・検討を進めて論文に総括することを目指す。 このほかに、18世紀半ばの趣味の変化を反映した、王立アカデミーの有力者コシャンの原典史料(1754)の分析および額縁の様式変遷の検討を行い、室内調度の様式と絵画様式の変化が連関していたことを明らかにした。これは、静物画の様式変化ともかかわるものである。この成果は、当該史料の翻訳・解題として小論文にまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、申請者の妊娠および出産(2012年6月23日)に伴い、予想していたよりも体力的問題及び育児による制約が生じ、現地調査が実施できなかった。そこで、現地にある美術愛好家の競売カタログや財産目録、素描・版画を中心とする一次史料の調査は、次年度に予定していたものとともにまとめて実施する。 今年度は、図版資料・文献資料の収集に努め、その整理・分析に集中的に取り組んだ。同時に、予備調査として静物画を愛好したコレクターのリスト化を進めたことによって、次年度に行う現地調査の準備も充分に整えることができたと考える。また、近年、リプリント版として一次史料の公刊が数多くなされていることから、現地調査の延期分をある程度埋め合わせることが可能となった。それらの史料の解読と分析を通じて、本研究にとって重要な美術愛好家をある程度絞ることができ、その趣味の傾向の分析を進めた。特に、18世紀の有力な美術愛好家コンティに関して言えば、ビュスマンによる最新の研究(2012)が発表され、これまで未公刊であった貴重な一次史料が収録されたことは本研究に資するものであった。この史料によって、コンティのコレクション内容と展示配置、さらには当時理想とされた展示方法の一例が明らかとなった。したがって、コンティに関する史料の分析に取り組めたことは、有益な計画変更であったと考える。ちなみに、この最新のコンティ研究は、総合的な基礎研究ではあるが、静物画受容という観点からはまだ充分には論じられていないため、本研究において再検討を加える余地があるものと考える。 以上により、本研究の目的の現在までの達成度をおおむね順調に進展していると自己評価するものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、申請者の妊娠および出産によって、当初予定していたフランスを中心とした海外調査が実施できなかった。美術愛好家の競売カタログや財産目録、素描・版画を中心とする一次史料の調査は、次年度に予定していた海外調査とともにまとめて行うことが課題である。 今年度には、収集した文献史料の整理・分析、また18世紀後半にシャルダンやヴァレイエ=コステルらの静物画作品を愛好した主要な美術愛好家のリスト化、そのコレクションの分析を行った。その結果、今後は新たに18世紀前半の代表的なコレクター数名とそのコレクション内容との比較作業が新たな課題となった。そのため、パリでの調査の重要性が当初よりも増すこととなった。その方策として、次年度の海外調査の計画に変更を加えて、スウェーデンよりも、フランスに重点を置くことにした。 次年度は本研究の最終年度にあたるため、成果を総括して論文を執筆することにも時間を要する。従って、その時間的な制約から、海外調査を一度にまとめることを目標にする。ただ、調査データの遺漏の可能性等を考慮して、分析・考察および論文執筆の進捗状況によっては、さらに短期間の海外調査をもう一度行うことも視野に入れている。 また、今年度はシャルダンとヴァレイエ=コステルの作品の所蔵者の調査を中心に行い、重要な美術愛好家を絞ることができた。この成果を踏まえながら、来年度も当初の予定どおり、ウードリーとデポルトの作品所蔵者の調査を継続する。 以上のことによって、今年度に海外調査が実施できなかった遅れを取り戻すことができると考える。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、申請者の妊娠および出産によって、当初予定していた海外調査が不可能となった。本研究費のうち、この海外調査費が最も大きな割合を占めていることが主たる理由となり、「次年度使用額」が生じることとなった。従って、翌年度分として請求した助成金と合わせておよそ2回分の旅費が含まれることになるが、最終年度という時間的制約から、当初の予定よりも長期の旅程を組んで1回にまとめることを目標とする。ただし、「推進方策」にも記述したように、研究の進捗状況によっては短期間の海外調査をもう一度加えることも視野に入れている。 そのほか、今年度収集した資料および次年度の海外調査で入手する予定の資料のデータベース化のために、ソフトウェアと外付けハードディスクを購入する。また、図版や文献資料の収集は、今後の本研究の進展にともなって随時必要となるため、次年度も継続する。
|