2013 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀フランスの静物画研究―美術愛好家の展示空間の視点から
Project/Area Number |
24720044
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
船岡 美穂子 東京藝術大学, 美術学部, 助手 (90597882)
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Keywords | 美術史 / 18世紀 / フランス / 静物画 / 美術愛好家 / シャルダン / アート・コレクション / 展示 |
Research Abstract |
本研究の目的は、18世紀フランスの美術愛好家の絵画コレクションの内容とその陳列室の展示空間を再構成し、当時の静物画作品の鑑賞方法と画家の作品制作との相互の影響関係を新たに提示しようとするものであった。このような試みは、従来ほとんどなされてこなかった。 初年度に行った、作品と展示方法にかんする一次史料の収集と分析、及び美術愛好家の調査から得られた知見を踏まえ、最終年度は、フランスとイギリスでの海外調査を実施した。未公刊の一次史料や作品の調査を通じて、主要な美術愛好家の陳列室の展示空間の再構成を試みた。 18世紀後半には、同時代のフランス美術を愛好する「自国美術の愛好趣味」が流行した。この先進的趣味の持ち主であるラ・リヴ・ド・ジュリやコンティといった愛好家たちの多くは、フランス絵画ばかりを集めた陳列室で、小型の静物画作品を目の高さに並べて展示していた。一方、シャルダンやヴァレイエ=コステルら静物画家は、同時期に陶磁器や菓子や果物といった洗練されたモティーフによる小型作品を数多く制作している。これはラ・リヴら作品購買者である美術愛好家の趣味や展示環境を少なからず意識した制作であったと結論づけられた。小さなサイズの作品は陳列室の空間に適しており、低い位置での展示は、至近距離からの細部描写や絵画技法の鑑賞を可能にした。こうした陳列室では、従来オランダやフランドルの小型作品が占めていた展示場所をシャルダンらの小型作品がとってかわるようになったと言える。 さらに、18世紀後半に開催されたサロンでの批評や展示記録をあわせて検討した結果、美術愛好家ポミエ師の場合のように、シャルダンの静物画を所有することが、しばしば愛好家としての趣味の誉れとなり、王立アカデミーでの役職といった社会的地位にも結びついたことを明らかにした。以上の成果は、研究会で口頭発表を行い、論文としてまとめて学術誌に発表した。
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