2012 Fiscal Year Research-status Report
クリヴェッリの祭壇画研究 ―近代における美術品流通と「タブロー化」の視点から
Project/Area Number |
24720045
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上原 真依 大阪大学, 文学研究科, 助教 (90609463)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | イタリア / マルケ地方 / 19世紀美術品市場 / 祭壇画 / 美術史 |
Research Abstract |
15世紀イタリアの画家カルロ・クリヴェッリが制作した祭壇画は、長らく製作地であるマルケ地方の聖堂などに保管されていたが、19世紀に次々とパネルごとに解体され、当時市場価値の高かった「タブロー」へと姿を変えて、世界各地に売却された。今年度は、クリヴェッリ祭壇画の解体・売却の過程を、ローマ国立古文書館の教皇庁商業省文書とロンドン・ナショナル・ギャラリー館長C.L.イーストレイク文書を検証することで明らかにすることを試みた。 具体的には、1.すでに撮影済みの教皇庁商業省文書の整理を進め、クリヴェッリ祭壇画に関する記録のイタリア語の書きおこし、日本語での内容要約と史料写真をリンクさせるデータベースを作成するとともに、2.ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵のC.L.イーストレイクの書簡および報告書(2011年にS.アヴェリー・クアッシュにより刊行された)から、イタリア滞在時に記したクリヴェッリ祭壇画に関する記録を整理し、検証した。これらの史料は、当時の祭壇画の状況を伝えるだけでなく、美術品市場における祭壇画パネルの価値基準を知る上でも重要である。今年度は、これらの祭壇画流通関連の史資料の収集とその検討を中心とした。 なお史料検証の過程で、上記のような公的文書以外にも、ファブリアーノなどマルケの都市には、19世紀に祭壇画パネルを収集していた貴族らによる記録が残されていることが明らかになった。この成果をもとに、来年度以降はイタリアに出張し、これらの未刊行史料の調査にあたる予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、クリヴェッリ祭壇画の解体・売却の過程を明らかにするため、ローマ国立古文書館の教皇庁商業省文書とロンドン・ナショナル・ギャラリー館長C.L.イーストレイク文書を検証した。 ローマ国立古文書館における史料収集は順調に進み、ほぼ8割の商業省文書をチェックし祭壇画売買や流通に関わる文書を収集・検証済みである。修復中や所在不明などで閲覧できなかった文書については、再来年度のイタリア出張時に補完する予定である。 またロンドン・ナショナル・ギャラリーのC.L.イーストレイク文書については、当初は現地で直接調査する予定であったが、昨年に同文書が刊行されたことと、刊行前後は史料の閲覧ができなかったことを受け、まずは刊行済みのイーストレイク文書を国内で検証することとした。これにより、イーストレイクがイタリア滞在中に記録した祭壇画の記録を年代順に整理できたほか、未だ刊行されていないボザール文書(再来年度に調査予定)についても情報を収集し、ロンドン・ナショナル・ギャラリーでの調査方法の指針を立てることができた。 今年度は史資料の収集と検証が中心だったため、多くの論文発表はできなかったが、来年度以降にこれらの成果を論文の形で発表する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、当初の予定であった1.ブレラ絵画館関連文書尾中心としたミラノでの史料収集を進めるほか、今年度の成果を踏まえて2.ファブリアーノらマルケ地方都市での史料収集、3.祭壇画パネルの実地調査の3点を進める。 特に3の祭壇画パネルの実地調査については、1と2で扱う史料に関連するパネルを取り上げるため史料調査の進捗によって調査地が増える可能性がある。現在のところ、イタリアに残された祭壇画パネルに加えて、アメリカ、ボルチモアのウォルターズ美術館のパネル実地調査を予定している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「現在までの達成度」で述べたように、C.L.イーストレイク文書の刊行とナショナル・ギャラリーでの当該文書の閲覧が難しかったことを受け、今年度はロンドンを含む海外出張を取り止め国内での史料検討に変更したため、一部の出張費が未使用となった。 しかし、イタリア教皇庁商業省文書の検証により、ファブリアーノなどマルケ地方の都市でのコレクター文書調査や、各国が所蔵する祭壇画パネル調査など、当初予定していたよりも多くの国・地方への出張が必要となることが明らかになった。そこで次年度以降は、今年度の未使用分の研究費も合わせることでイタリアやイギリスの文書館、もしくはアメリカの美術館に出張し調査を行う予定である。また出張前には、当該パネルについて、もしくは関連する来歴・コレクターについての事前調査が必要となるため、多くの図書購入を予定している。
|