2014 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア正教古儀式派イコンにおける図像上の特徴に関する研究
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24720052
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Research Institution | National Institute of Technology, Toyama College |
Principal Investigator |
宮崎 衣澄 富山高等専門学校, 国際ビジネス学科, 准教授 (70369966)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | イコン / ロシア正教古儀式派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,18-19世紀のロシア正教古儀式派イコンをとりあげ,1)古儀式派イコンの多くに通じる独自性のあるモチーフを整理し,2)同一モチーフを描いた国家正教会のイコンやイコン儀軌,ルボーク,写本挿絵等との比較・分析を通して,3)18-19世紀の古儀式派イコンにおける図像上の特徴を明らかにすることである。 1)古儀式派イコンの多くに通じるモチーフとして,古儀式派成立の教義に関わる点(二本指の十字の印,キリストのIСという綴り方),1722年シノドが禁止した図像(聖殉教者クリストファー,三本手の聖母,天地創造の6日間,燃え尽きざる藪の聖母,神の英知)について考察した。これらの点について,2)同一モチーフを描いた国家正教会のイコンと比較したところ,国家正教会のイコンは制作時期によって図像の扱い方が異なることが分かった。18-19世紀初期は美術アカデミーの美の規範がイコン制作にも影響を与え,油絵を使用した西欧宗教画風のイコンが主流をしめていたため,古儀式派が好んだ伝統的主題やモチーフの使用は,特に首都ペテルブルグでは稀であった。従って,この時期は古儀式派が好むモチーフの使用,伝統的図像,テンペラ画の使用によって,古儀式派由来である可能性が考えられる。 一方,19世紀中期には,ロシア社会においてロシア的伝統やビザンツ美術への関心が高まり,イコンにおいても伝統的図像が好まれるようになった。19世紀中期以降,ロシア的伝統への回帰現象が顕著であり,宮廷周辺で古儀式派出身のイコン画家が活躍した。中世ロシア,ビザンツイコンの図像の写しが多く制作されたため,古儀式派が好む主題やモチーフを描いているという点だけにおいては,古儀式派由来のイコンと推定することはできない。古儀式派由来のイコンであるか否かには,イコン画家や注文者など,制作背景について入念に検討する必要があることが明らかになった。
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