2013 Fiscal Year Annual Research Report
楽譜制作と資料整備にひそむナショナリズム:西洋音楽史学再考
Project/Area Number |
24720058
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
朝山 奈津子 弘前大学, 教育学部, 講師 (30535505)
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Keywords | 西洋音楽史 / 音楽受容 / 音楽史記述 / 20世紀 |
Research Abstract |
本研究は、20世紀における楽譜資料制作を調査し、時代や国ごとの音楽観(ときに政治戦略)の影響を明らかにすることを目的とする。 国家的楽譜叢書の先駆であるドイツ語圏の主要3叢書については、先行する研究プロジェクトを通じて全容が明らかになった。そこで本研究では、周辺各国の楽譜叢書をドイツと比較検討する。対象として、英国、スイス、ベルギー、オランダ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェイ、フィンランド、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、スロヴェニアをえらび、国名を冠する大規模楽譜叢書の序文および書誌情報の収集を行った。 方法はまず、全巻の序文、校訂報告、注記、および装丁等から、(1)当該作品の収載理由、(2)当該作品、作曲家の音楽史上の位置づけ、(3)当該巻のシリーズ内での位置づけ、(4)使用資料の所在と性質、(5)当該巻に特別な校訂方針、を読み取って分析した。併せて統計的な手法を用い、収載作品の作曲年代、作曲家の属する地域ないし楽派、作品のジャンルの観点から、各項目が全体に占める割合を算出した。以上のデータを刊行年代と照らし合わせ、各シリーズの選曲傾向の目安とした。考察の視点は、①ドイツと歴史的に関わりの深い諸国の対独意識およびその歴史的変化、②ドイツの楽譜制作を範とした他国の楽譜叢書の目的、の2つである。 本研究を通じては以下のことが明らかになった。I: 英国とフィンランドの楽譜叢書は国からの助成に拠らず、演奏のための資料整備を主眼とする点で、ドイツのものとは一線を画する、II: ドイツと国境を接する諸国では、音楽様式の独自性よりもむしろドイツに与えた影響を論じる中で、アイデンティティを主張する傾向にある。III: 従って、20世紀ヨーロッパ全体の楽譜叢書制作を見渡すと、各国の音楽文化の多様性よりも、ドイツとの音楽的・歴史的関係が強く反映されていることが明らかになった。
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