2012 Fiscal Year Research-status Report
総力戦と対外文化宣伝における邦楽の活用――アジア・太平洋戦争期の日本人の音楽観
Project/Area Number |
24720079
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Showa University of Music |
Principal Investigator |
酒井 健太郎 昭和音楽大学, 大学共同利用機関等の部局等, 講師 (60460268)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 総力戦態勢の構築・強化における邦楽の活用 / 対外文化宣伝における邦楽の活用 / 邦楽観・洋楽観 / 文化的アイデンティティ / 邦楽の社会的役割 |
Research Abstract |
本研究の目的は、アジア・太平洋戦争期の日本において、①総力戦態勢を構築・強化するにあたって日本の伝統楽・芸能(邦楽と称す)がいかに活用されたか、および、②日本文化を対外的に宣伝するにあたって邦楽がいかに活用されたか、それぞれ明らかにすること、そこで得た知見をもとに、③同時期の日本人の邦楽についての観念を考察すること、さらに、④同時期の日本人の邦楽観と、同時期の日本人の西洋発祥の音楽についての観念を比較・検討し、当時の日本人が音文化全般に対していかなる観念をもっていたか考察することである。 平成24年度の研究は「文献調査・分析」を主たる内容とし、これを(a)「総力戦態勢の構築・強化における邦楽の活用に関する文献」と(b)「対外的文化宣伝における邦楽の活用に関する文献」の2領域において進めた。 (a)では『芸海』(1929~1937年)、『筝曲』(1937年)、『三曲』(1943年)、『日本音楽』(1944~1948年)、『季刊邦楽』(1979年)といった邦楽関係雑誌から、当研究の対象となる約200の記事を収集・整理し、総力戦態勢の構築・強化における邦楽の活用の思想・実態について分析した。 (b)では、財団法人国際文化振興会(KBS)の機関誌『国際文化』第1号(1938年11月)~第31号(1944年6月、戦中の最終号)から、本研究に関係する記事を収集・整理し、そこから対外文化事業の目的・方法がどう変化したと読み取れるか、対外文化事業に邦楽をどう活用すべきと論じられたか、分析した。 以上の研究の結果(途中経過)ならびに今後の課題を、国際会議(香港第九回国際日本語教育・日本研究シンポジウム、対タイ文化事業の実態を中心に)と専門的な研究会(洋楽文化史研究会第73回例会、邦楽関係雑誌ならびに『国際文化』誌の分析・検討)にて報告し、関係領域の研究者と意見交換した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、邦楽に関係する雑誌数誌より当研究に関係する約200記事、国際文化振興会の機関誌『国際文化』の終戦までの発行分の収集・分析を一通り終えた。また、ここまでの研究の途中経過ならびに今後の課題を、香港での国際シンポジウム(2012年11月)と国内での専門的な研究会(2013年3月)にて報告し、他の研究者との情報交換をおこない、今後の研究遂行において参考にすべき意見を得ることができた。 これらは概ね所期の計画通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究を進めるにあたり基礎的な作業である「文献調査・分析」は、上記のとおり、概ね所期の計画通りに進んでいる。しかしながら、これまでのところ、予測していたような決定的な知見を見出すには至っていない。文献収集・分析や先行研究の検討が十分でない可能性があるので、平成25年度はより広い範囲でこれらをおこなう。 同時に、これが資料収集の不徹底に帰することのできない問題である可能性を考慮すべきである。そうであるならば、決定的な知見を見出し得ない理由を検討しなければならない。そしてそれは、当時の邦楽が社会的な役割を果たしていたのか、社会的な役割をもちえたのかという、根本的な問題に繋がる可能性があり興味深い。このことを念頭に置いて研究を進める。 なお、研究の成果は随時報告し、情報を収集・交換することとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に「次年度使用額」が生じた最も大きな要因は、書籍の購入に研究費を使用しなかったことである。研究に必要な書籍は他の予算等で購入したので、研究の遂行に問題はない。 平成25年度の研究費は、平成24年度の「次年度使用額」と合わせて、文献収集の諸費用(国内旅費・複写費)、国内・外での学会等参加の諸費用、研究協力者への謝金に使用する。
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