2013 Fiscal Year Research-status Report
総力戦と対外文化宣伝における邦楽の活用――アジア・太平洋戦争期の日本人の音楽観
Project/Area Number |
24720079
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Research Institution | Showa University of Music |
Principal Investigator |
酒井 健太郎 昭和音楽大学, 大学共同利用機関等の部局等, 講師 (60460268)
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Keywords | 総力戦態勢の構築・強化における邦楽の活用 / 対外文化事業における邦楽の活用 / 邦楽観・洋楽観 / 文化的アイデンティティ / 邦楽の社会的役割 / 東京音楽学校と邦楽 |
Research Abstract |
本研究の目的は、アジア・太平洋戦争期の日本において、①総力戦態勢を構築・強化するにあたって日本の伝統楽・芸能(邦楽と称す)がいかに活用されたか、および、②日本文化を対外的に宣伝するにあたって邦楽がいかに活用されたか、それぞれ明らかにすること、そこで得た知見をもとに、③同時期の日本人の邦楽についての観念を考察すること、さらに、④同時期の日本人の邦楽観と、同時期の日本人の西洋発祥(洋楽と称す)の音楽についての観念を比較・検討し、当時の日本人が音文化全般に対していかなる観念をもっていたか考察することである。研究期間の2年目にあたる平成25年度は、(a)東京音楽学校による邦楽教習・教育の経緯等、(b)対外的文化宣伝における邦楽の活用の2領域において研究を進めた。 (a)では、音楽取調掛ならびに東京音楽学校における邦楽諸種目の教習、ならびに1936(昭和11)年の邦楽科設置に至る経緯に関する史資料を収集し、それをもとに史実を整理した。特に東京音楽学校に関する新聞報道を重点的に収集し、同校に対して一般的にどのような視線が向けられたか検討した。さらに前年度に収集した史料も参照して、邦楽界において東京音楽学校が果たした役割といった観点から考察した。その成果を、東洋音楽学会第64回大会ならびに洋楽文化史研究会第78回例会にて報告した。 (b)では、すでに平成24年度に財団法人国際文化振興会の機関誌『国際文化』第1号(1938年11月)~第31号(1944年6月、戦中の最終号)から、本研究に関係する記事を収集・整理し、そこから対外文化事業の目的・方法がどう変化したと読み取れるか、対外文化事業における邦楽の活用について分析した。その成果をもとに、対外文化事業における普遍性や伝統性がいかに論じられたかといった角度から考察し、論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、関心領域の史資料の収集を引き続きおこなった。また、それまでに収集した史資料をもとに、対外文化事業における邦楽の活用の実態を明らかにし、当時の日本人の邦楽観のありようを検討した。その結果は論文としてまとめて発表した(2014年3月)。 また、東京音楽学校における邦楽の教習や邦楽科設置の経緯に注目して、史実を整理し、東京音楽学校が一般社会においてどのように受け止められたか等を検討した。その結果を学会・研究会にて報告した。学会・研究会では他の研究者と情報交換をして、今後の研究遂行において参考にすべき意見を得ることができた。 以上はおおむね計画通りであるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究を進めた結果、日本人の邦楽観、さらには洋楽観・音楽観に、音楽学者で東洋音楽学会創設者でもある田邉尚雄(の言説)が与えた影響は看過すべからざるものであることが見えてきた。殊に田邉が科学的な手法により、広範な音楽(邦楽やその他の地域の民俗的な音楽)について考察したことにより、日本における各種音楽の位置づけがなされ、それが一定以上の説得力をもって受け入れられたと考えられる。 日本の音楽界における田邉の影響力の大きさはこれまでにも言われてきたことであったが、本研究の問題意識において改めて考察の対象にすべきと考えられる。今年度はこの点に注目して研究を進める計画である。 なお、研究の成果は随時報告し、情報を収集・交換することとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は当初、海外で研究成果を報告する計画であったが、テーマ的ないし日程的に適当な学会等がなかったために実現しなかった。次年度使用額が生じることとなった主な理由はここにある。 平成26年度は、先述のとおり田邉尚雄に注目した研究をおこなう計画である。田邉には非常に多くの著作物があり、まずはこれらの収集・分析を進める(それにあたっては研究協力者の協力を仰ぐ)。また、国内の学会等に参加して情報収集するほか、海外の学会等での研究成果の報告を2度おこなうことを計画している。以上より、今年度の研究費は文献収集の諸費用(国内旅費・複写費)と国内・外での学会等参加の諸費用、研究協力者への謝金に使用する。
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