2014 Fiscal Year Research-status Report
視覚芸術におけるトラウマと心理ケア――芸術と臨床の連携に向けた歴史研究と理論構築
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24720084
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
石谷 治寛 甲南大学, 人間科学研究所, 博士研究員 (70411311)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | トラウマ / パリ・コミューン / 戦争 / 農業問題 / 災害 / メディア・アート / 記憶・記念碑 |
Outline of Annual Research Achievements |
トラウマという観点を切り口に、これまでの19世紀研究を別の角度の論考を発表し、口頭発表を行うことができ、また第二次世界大戦以前の時期の日仏や、アメリカの第一次世界大戦後のトラウマ的問題などについて、小エッセイを発表した。 19世紀研究としては、「印象派の都市と自然」(『シリーズ都市と芸術 パリ1』喜多崎親編、竹林舎)で、都市の緑化の文脈でパリ・コミューン前後のトラウマについても触れた。また、口頭発表 「絵筆とナイフ――ピサロとセザンヌを中心に」(『マネから印象派へ:1860年代のフランス絵画の変貌』日仏美術学会)では、精神的外傷の問題とは直接関係しないが、絵画とナイフという主題で、コミューン期前後の飢餓感に関わる食や農業表現の問題を論じた。 20世紀中葉の戦争とトラウマをめぐる表象に関しては、日仏美術学会のシンポジウム報告「戦争と芸術:第一次世界大戦期における日仏の芸術的様相」をまとめ、第二次世界大戦以前、1930年代の農村の荒廃と、農業の機械化についてドキュメンタリー映画を扱い「自然との対峙――ロバート・フラハティとアメリカの大地」(『neoneo』)で論じた。 さらに、1990年代の日本のアートとトラウマに関して、ダムタイプの高谷史郎についての口頭発表をを国際シンポジウム(『TRAUMA AND UTOPIA』)で行い、2010年代の南三陸町での参加型アートの実践についての研究会記録「アート×ナラティヴ×災害トラウマ~記憶の紡ぎ手の役割を考える」を紀要にまとめた。 また不眠と現代社会について論じたジョナサン・クレーリーの著作の翻訳『24/7 眠らない社会』とその解説を、注意経済という観点に触れながら執筆した。注意の問題は解離という概念とも絡むものであり、解説で、具体的な日本の戦後を描いた映画に触れながらそのことについて言及できたことは大きな成果だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでのトラウマと視覚芸術に関する調査内容を活かしながら、さまざまな時代やジャンルにわたる研究成果を発表している。 昨年度は、当初想定していたよりも多くの口頭発表やエッセイの執筆に恵まれ、非常に幅広い分野にわたって論じることになった。特にトラウマという主題で、日本のメディア・パフォーマンス芸術について、アジアの現代アートをめぐる国際シンポジウムで論じられたことは収穫であった。今後アジアという枠も視野に入れて考察を深めていきたいと考えており、そのためにも、現在、日本で行われた京都国際芸術祭「PARASOPHIA」についての論考を執筆中なので、それをまとめたうえで、国際芸術祭ヨコハマトリエンナーレ2014年ともあわせて、戦中戦後のアジアをめぐるアートとトラウマの問題について考察を深める。 そうしたテーマの広がりは、本研究をいっそう充実したものにしているが、予定していたトラウマ理論とアートの関わりをまとめる作業については、やや遅れも出ている。本年度中には、6月にトラウマティック・ストレス学会でのポスター発表を予定しているが、それにあわせて理論的な軸を確固にする作業を早急に進めていく必要がある。アジアという枠組みを通した、トラウマとアートという課題に関しては、二次史料の収集を行いながら、今後のプランを策定する。
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Strategy for Future Research Activity |
トラウマをキータームとして用いて、1990以降の芸術批評の言説と、現代の臨床心理学や関係性精神分析学・神経生理学やそれを応用したトラウマに対する芸術療法についての新知見の理解と考察を進める。また、これまでの研究成果を著書としてまとめ出版する準備を整え、内外で発表する機会を増やす。 本年度は上記のような総括に取り組んでいく予定であるが、次の段階に向けての調査も引き続き行っていく。 そのさい特に次の点に注意して研究を進める。第一次世界大戦後の戦争神経症がアートや映画にどのような影響を与えたかについての調査研究、現代の国際芸術祭において、トラウマやそれに対する癒やしや治癒がいかに主題として扱われているかについての調査、芸術理論におけるトラウマ概念の浸透に関する理論研究である。上記の調査研究のために、本年度は、特にフランスを中心に調査活動を行うことで、資料を充実させ、研究を進めていく予定である。 それらの考察を研究成果としてまとめながら、次の研究課題に向けてのプランを策定していく。
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