2015 Fiscal Year Annual Research Report
視覚芸術におけるトラウマと心理ケア――芸術と臨床の連携に向けた歴史研究と理論構築
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24720084
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
石谷 治寛 甲南大学, 人間科学研究所, 博士研究員 (70411311)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | トラウマ / 喪の仕事 / 現代アート / 記憶 / 映像 / メディエーション / アーカイブ |
Outline of Annual Research Achievements |
トラウマをキータームとして用い、1990年代以降の芸術批評の整理を行った。芸術祭の状況やステートメント、美術史・批評家ハル・フォスター、グリゼルダ・ポロックらの議論を辿りながらブラハ・エッティンジャーによる精神分析理論を批判的に再検証したマトリクスの概念とトラウマの美学について考察した論文を発表した。 本研究2015年度の課題は、特に1920年代からの、戦争神経症からPTSDの定式化がなされるまでの時期のトラウマ問題と芸術表現を再考することであり、そのために、収集した資料の整理に基づいて作家研究を進めた。その観点で、第一次世界大戦を映画化したアベル・ガンスと、その直前のドイツによるナミビアの植民地化を主題としたウィリアム・ケントリッジの作品《ブラックボックス》(2005年)について考察を行った。精神分析学における「喪の労働」という言葉が誕生する時期に、戦争、映像メディア、喪といった主題の交差を、過去の映画の技法と、それらの映像や技法を現代のインスタレーションとして用いる作家の考察を通して学会発表を行い、論文として発表した。 またRealkyotoを含めた雑誌やウェブなどの媒体に、研究に付随して得た考察や、調査の一部を公表し、とりわけ京都国際芸術祭Parasophiaのレビューは、トラウマと視覚芸術という本研究の課題にも通じるものがあり、現代芸術祭を語るとき本研究の視点が有益であることを示した。 トラウマと視覚芸術の主題に関して書き続けた論考は、書籍にするだけのボリュームが既にある。 今後は上記の内容を、全体的に手直しをしたうえで、まとめ直す作業を行う。本研究で得られた視覚芸術におけるトラウマ、記憶、アーカイブ、メディエーションに関する知見をもとに、次の課題に進んでいく。
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Remarks |
Realkyoto.com には本研究に関連する現代アートのレビューを掲載している。
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