2013 Fiscal Year Research-status Report
山東京伝の江戸文化圏解明に関する研究ー松前文京の文芸活動について
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24720087
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鹿島 美里 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (00609068)
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Keywords | 山東京伝 / 松前文京 / 江戸座俳諧 / 泰郷・泰卿 / 李井 / 吉原 |
Research Abstract |
山東京伝の有力な後援者の一人であった松前藩主松前道広の弟、松前文京(俳号泰郷・泰卿)の俳諧活動について調査・分析を進めた。松前文京は『いとしぐれ』で江戸座俳諧宗匠存義の別号「有無庵」の二世を名乗っており、弟武広は『冬木立』で存義からその号の一つである「李井」という号を譲られていたことから二人の俳諧宗匠が存義であることが分かった。そのため前年度に引き続き、存義に関する俳書を中心に天理図書館、県立長野図書館等でマイクロフィッシュ・原資料にあたり調査・分析を進め、俳書の書誌情報のデータベース作成と内容分析を行った。さらに今年度は文京が『春の山守』など江戸座存義側俳諧宗匠秀国の編纂した俳書に入集することから、秀国が係わった俳書の調査と内容分析を行った。そこから文京は大名俳諧の重鎮であった大和郡山藩主柳沢信鴻(俳号米翁)と多くの俳書で入集するが、この交友関係も俳諧宗匠秀国との係わりが深いことによるものであることが分かった。また、文京と同時代の大名俳人松代藩主真田幸弘が親しく交友していた江戸座俳諧宗匠菊堂が入集する俳書『妙智力』などに文京も多数入集しており、幸弘を中心に菊堂との係わりの中で俳諧交友が行われていたと考えられる。さらに、これらの俳書には吉原妓楼主人や戯作者朋誠堂喜三二(俳号月成)も入集しており、文京が吉原関係者と一緒に俳諧を行っていたことが明らかとなった。これらの調査・分析により、文京と俳諧交友によって繋がった大名俳人、江戸座俳諧宗匠、吉原者との関係から江戸文化圏の解明を進めてゆきたい。 くわえて、『山東京伝全集第十巻 合巻5』の『妹背山長柄文台』、『薄雪猫旧話』の翻刻を担当した。作品中に見られる江戸座の俳人の句から、山東京伝が江戸座俳諧からの作品に与える影響を認めた。これは京伝と江戸座俳諧を結びつける要素となると考えられ、今後も検討と分析を行ってゆきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度も昨年度に引き続き、松前文京(俳号泰郷・泰卿)が関係する俳書について、天理大学綿屋文庫、伊丹市立柿衛文庫、西尾市立岩瀬文庫、国文学研究資料館、県立長野図書館等でマイクロフィッシュ、原資料にあたり資料調査、内容分析を行った。俳書の内容、俳書の入集者等をデータベース化した資料を分析した結果、文京が入集する俳書が多数見つかり、文京の江戸座俳諧における位置づけ、俳諧交友関係が明らかとなった。これを論文としてまとめる準備が整っている。特に江戸座俳諧宗匠の存義・秀国・菊堂、大名俳人松江藩主弟松平雪川、柳沢信鴻(俳号米翁)、秋田佐竹藩佐藤晩得(俳号朝四)、吉原関係者との係わりが深いことが明確となった。これらの分析結果をもとに文京の俳諧交友を通じて生成された江戸文化圏の解明を行う見通しが得られ、今年度の研究目的をおおむね達成できたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの松前文京に関する資料収集・内容分析によって明らかになった文京の江戸座俳諧活動について論文としてまとめ発表する。松前文京と大名子弟、江戸座俳諧宗匠、吉原関係者の俳諧交友関係が明らかになると考えられる。また、山東京伝の合巻には江戸座俳人をはじめ多数の発句が見られるため、江戸座俳諧からの影響を考察してゆきたい。 さらに、吉原文化と松前文京の係わりを解明する。これは、松前文京が身請けをした吉原松葉屋遊女七代目瀬川との係わりを吉原の案内書である吉原細見、また吉原遊女瀬川が登場する黄表紙・洒落本、さらに同時代の作家、大田南畝の『松楼私語』や『俗耳鼓吹』など、遊女瀬川が登場する文献から調査する。これにより、吉原文化圏の解明がなされることによって、山東京伝作品を読解する鍵となる江戸文化圏解明を完了させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は昨年度まで資料収集した俳書の内容分析と入集者のデータベース化の処理と『山東京伝全集第十一巻 合巻6』の翻刻を担当していたために時間を要した。また、11月に出産したため研究以外に時間を要する必要があり、次年度使用額が生じた。 今年度の使用計画は、松前文京の資料収集のため致道博物館・長野県松代市真田宝物館・天理図書館綿屋文庫・国文学研究資料館等の関係諸機関で出張調査を行う。デジタルカメラ撮影とともにマイクロフィッシュ化されているもので必要部分は紙焼複写を行う。さらに、山東京伝の合巻に江戸座の発句が多数みられることから、山東京伝の合巻の紙焼複写を行い、この資料をもとに分析を行う。また、江戸座俳諧と吉原、山東京伝に関する文献を購入する予定である。
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