2013 Fiscal Year Research-status Report
〈しのびね型〉とその周辺の物語に関する物語史的研究
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24720093
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金光 桂子 京都大学, 文学研究科, 准教授 (30326243)
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Keywords | 室町物語 / 中世王朝物語 / しのびね型 |
Research Abstract |
当該年度は、昨年度に引き続き、『しぐれ』『雨やどり』両作品の諸本調査を進めた。慶應義塾図書館、、学習院大学図書館、日本大学図書館、天理図書館、蓬左文庫、大東急記念文庫等へ調査に赴いて伝本を実見するほか、写真版や複写を入手し、本文および挿絵の整理と比較分析を順次行っている。 『しぐれ』諸本の本文はほぼ収集できたので、新出の永正十年絵巻を含めて、諸本の関係について総合的に考察した。その結果、永正十年絵巻の本文が最も古態を保っており、大東急文庫本に代表されるA系統はより室町物語的に書き換えられた本文であると結論づけるための根拠を、さらにいくつか見出した。また、永正十年絵巻からA系統へという方向性を前提にすると、B系統・C系統に見られる独自異文の中には、その中間的な形と見られるものがあることを明らかにした。B系統・C系統の本文には、時に前後矛盾したり、場面の説明と和歌本文とが整合しない場合があり、従来は後出の本文であるがゆえの不備とされていたが、永正十年絵巻のような本文から改変される中での、過渡的な形を残していると考えれば、納得がいくのである。そして、そのような不整合を修正し、室町物語として完成されたものがA系統本文であるといえる。以上のことから、『しぐれ』諸本における大東急文庫本の価値は、最も原初的な本文を伝えるという点にではなく、永正十七年という、永正十年絵巻と極めて近い年に書写されたものでありながら、これほど大きく変容を遂げた本文を持っているところにあると、従来の評価を覆す結論に達した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度中に完了予定であった『雨やどり』諸本本文の収集は、所蔵機関との調整がうまくゆかず、計画どおりに進んでいない。そのため、『雨やどり』諸本の整理は後にまとめて行うことにし、次年度の計画であった『しぐれ』諸本の整理を先に行った。永正十年絵巻の本文を基準に据えることにより、A系統において室町物語的に改変された部分を浮き彫りにした上で、B系統・C系統の本文の中にも古態を残す部分があることを発見し、諸本の関係について従来の通説を見直すという目的はおおむね達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
『雨やどり』諸本の調査を続行する。資料がほぼそろったところで、諸本を整理し、最も原型に近いと思われる本文を確定する。その本文に基づいて、『雨やどり』の成立時期や王朝物語からの影響について検証し、『木幡の時雨』や『しぐれ』との比較考察を行う。 『しぐれ』諸本についても、前年度までに得られた成果をもう一度検証する。その上で、王朝物語から室町物語に至る〈しのびね型〉物語史の総合的な記述を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度は、資料所蔵機関との調整がうまくゆかず、予定どおりの調査が行えなかったため、出張旅費が計画を下回ったことによる。 次年度は、静嘉堂文庫、岩瀬文庫等での資料調査を予定しており、その出張費用および文献複写・撮影費として使用する。また、関連する図書(主として中世王朝物語・室町物語に関する本文テキスト、研究書)の購入にあてる。
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