2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720097
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
野本 瑠美 島根大学, 法文学部, 講師 (40609187)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 和歌文学 / 百首歌 / 定数歌 / 奉納和歌 |
Research Abstract |
本研究は、奉納百首を中心に「百首歌」と呼ばれる詠作形態が持つ表現上の特徴の解明を目的とする。奉納百首の詠歌集成や表現分析を通して、百首歌という形態が作品に及ぼす影響を明らかにするため、平成24年度は、以下の4点に基づき、研究を行った。 (1)奉納百首の先駆けとなった『寿永百首』のうち、『鴨長明集』を対象に表現分析を行い、贈答歌と雑部の構成から、百首家集編纂の意図を明らかにした。その成果を論文(「『鴨長明集』の贈答歌―寿永百首との比較から―」)として発表する(入稿済み/『島大国文』34号に掲載予定)。 (2)平安~鎌倉期までの奉納和歌を集成・分類するため、これまで定義が曖昧であった「奉納」という行為を和歌資料から再検討した。その成果を山陰〈知〉の集積ネットワーク第22回研究会(2013年3月3日、於米子市立図書館)で「始発期の奉納和歌」と題して発表した。 (3)「天神仮託歌集」の諸本調査及び本文研究のため、2012年8月22日~24日実践女子大学の山岸文庫所蔵の天神仮託歌集の書誌調査と資料の複写を行った。 (4)奉納百首との比較検討のため、応制百首の特徴を調査した。具体的には、『久安百首』に見られる述懐性の表出に着目し、帝への奉献と神仏への奉納との共通点・相違点を検討し、その成果を和歌文学会5月例会(2012年5月12日、お茶の水女子大学)で「『久安百首』における訴嘆の方法」と題して口頭発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究期間の1年目にあたり、資料の収集と基礎的調査を重点的に行った。結果、論文による発表数は少なかったが、今年度の基礎調査や学会等での口頭発表を踏まえ、次年度には論文や資料翻刻等の報告を行えると考えている。また、本研究成果の一部を取り入れた学位論文を提出する予定である。よって、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に得られた調査結果を基に、更なる発展を目指す。以下の4点に基づき、詠歌集成、表現分析、時代背景の考察を行っていく。 (1)和歌における「奉納」と「法楽」の定義を引き続き検討する。「奉納」については、これまで統一的見解がないまま研究が進められてきた。そのため、中世における慈円の言説や無住の「和歌即陀羅尼」観をもとに奉納和歌全体を定義しようとする見解も出されていたが、平安期の奉納和歌を調査するうちに、そのような見解が「奉納」の実態に即していないことが明らかとなった。本年度は平安期~鎌倉初期の和歌資料を中心に、資料に即して「和歌奉納」と呼び得る行為の検討と再定義、詠歌内容の分析を行っていく。 (2)前年度から引き続き、奉納百首の集成と原本調査、分析を行い、その成果を報告する。 (3)「天神仮託歌集」の諸本調査及び本文研究を行う。前年度収集した実践女子大学所蔵資料の整理と翻刻を行う。また国立歴史民俗博物館が所蔵する天神仮託歌集の調査を予定している。 (4)奉納百首との比較検討のため、応制百首の特徴を明らかにする。具体的には、『久安百首』以降の応制百首における述懐性の表出を、述懐歌の特徴や君臣和楽の演出等に着目しつつ分析する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度には、東京での資料収集と調査、研究発表を予定していた。しかし、実践女子大学山岸文庫の調査が予定より早く終了し、研究発表の一部も近県(鳥取県)で行ったため、当初の計画より旅費が抑えられた。また、平成25年度に刊行される予定の図書やデータベース(「日本文学web図書館」)の購入のため、次年度での研究費の使用を希望した。そのほか、平成24年度は所属大学の図書館の改修作業が行われており、スムーズな図書の購入・受入手続きのため、次年度に購入を繰り越した図書もある。平成25年度は、資料収集や研究発表のための旅費、および図書等の資料購入、論文抜刷の印刷や発送等に研究費を使用する予定である。
|