2012 Fiscal Year Research-status Report
日本中世後期軍記をめぐる文化論的研究――東国文化圏及び大内氏文化圏等を中心に――
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24720112
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Baiko Gakuin University |
Principal Investigator |
田口 寛 梅光学院大学, 文学部, 講師 (50625853)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 日本文学 / 軍記 / 後期軍記 / 日本中世後期軍記 / 東国文化圏 / 大内氏文化圏 / 室町軍記 / 鎌倉大草紙 |
Research Abstract |
日本中世後期軍記作品は、作品解釈や評価といった研究だけでなく、本文研究においても、いまだ発展途上にある。既に『群書類従』等に収められて広く通行している本文もあるが、その底本の現存諸伝本内における位置付けは、必ずしも明確ではなく、まして善本と断言することはできない。日本中世後期軍記作品の研究のためには、作品の評価を見定めることが必要であることはいうまでもないが、それと同時に、現存伝本の把握、その本文の系統分類といった、一見して地道な作業が避けては通れないのである。 日本中世後期軍記作品の一つとされる『鎌倉大草紙』も、状況は同様である。この作品については、既に研究代表者による伝本調査研究・本文分類研究の積み重ねがあるが、研究成果発表後にも新出伝本の発見が相次いでいる。そのうちの一写本が、研究代表者の所蔵となっている。 一方、研究代表者は、当該作品の諸伝本の中で最も原態に近いと見なされる系統の本文を翻刻刊行する必要性を感じていた。その系統は概ね『群書類従』所収本と同種ではあるが、『群書類従』所収本にも本文上の欠点が多くあり、広く通行し過ぎてしまっている『群書類従』所収本の相対化のためにも、別個の同系統本文の翻刻刊行が必要だったのである。 しかして、研究代表者が現在所蔵している写本は、その資格を有するものである。また、この写本は、書写年代の下限が明確であるだけでなく、研究代表者が別本によって既に指摘した特異なグループに属する写本でもある。 以上の理由から、本文研究・作品研究の一環として、当該写本の翻刻・紹介を行っている。本文特徴を紹介する中で、研究代表者は、当該作品の成立年代に関する推測や、『太平記』評判書研究に資する発言も行っている。前者の成立年代推測にあたっては、当該作品における中世後期西国の大名大内氏関係記事に論及した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究において研究代表者が注目する対象は、これまでも調査研究を押し進めてきた中世後期東国・鎌倉公方家に関する軍記作品や東国文化圏の研究と、さらに中世後期西国の大内氏文化圏等に関する研究である。前者については、現在も現存諸伝本調査などといった研究基盤の整備に多くの時間が費やされており、その成果は「研究実績の概要」欄に述べたとおりである。 研究代表者が所蔵する『鎌倉大草紙』写本についても、翻刻・紹介はまだ完結していない。これについては、次年度である平成25年度に発表公開の場を改めて確保する。 一方、大内氏文化圏等についての研究は、研究図書の購入などにその一端が見られるように、押し進めてはいるものの、平成24年度においては、これを中心とする研究を発表公開するには至らなかった。西国と東国との繋がり、大内氏文化圏等と東国文化圏との関わりについても、調査研究は水面下での並行作業として進めている段階であるというのが実状である。 しかし、「研究実績の概要」欄にも述べたとおり、その一部分を、研究代表者が所蔵する『鎌倉大草紙』写本を紹介した際に、著している。東国と西国との繋がり、東国文化圏と大内氏文化圏等との関わりは、『鎌倉大草紙』の大内氏関係記事が当該作品の成立年代を推測する上でも無視できないという点から、依然として重要視され、引き続き調査・検討を加えていく予定である。 現在までの達成度がやや遅れ気味であることには、本研究そのものの性質に起因する進展・展開上のやむを得なさに加え、詳細は記さないが、従来より継続している武辺咄集『常山紀談』の二者共同による訳注作業や、所属研究機関における突発的な校務との兼ね合いもある。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」欄にも記したように、研究代表者の所蔵する『鎌倉大草紙』写本の翻刻・紹介はまだ完結しておらず、次年度である平成25年度には、少なくとも完結のために発表公開の場を改めて確保する必要がある。 それに加えて、『鎌倉大草紙』以外の中世後期東国・鎌倉公方家に関わる軍記作品及び東国文化圏の調査研究や、中世後期西国の大内氏文化圏等に関わる作品(室町軍記『応永記』など)・資料の調査研究も、予定どおり全国規模にて押し進める。また、東国と西国との繋がり、東国文化圏と大内氏文化圏等との関わりを示唆する作品・資料を用いた研究の発表公開を、次年度においては企図し、公表発信を以て成果としたい。 なお、本研究そのものではないが、外部の研究者から依頼を受けている室町軍記の事典項目執筆も、本研究の推進を側面から支える活動となろう。 以上のために次年度も、資料の収集・調査及び複写を、資料所蔵機関の存在する現地にて行うか、あるいは所蔵機関等において複写されたものを、送付等の方法にて入手するなどして、研究環境の整備を同時に行っていくこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は特に、日本中世文学関係研究図書・日本文学関係研究図書・日本中世史学関係研究図書及び、関係する複写資料の入手等に研究費の多くを使用した。 その同一線上において、高額に及ぶシリーズ形式の図書(古典文学全集)も購入する必要が生じたが、平成24年度内の残額では賄いきれなかったため、次年度である平成25年度に繰り越すこととした。そのことにより、平成24年度の残額を、当初の平成25年度の交付(予定)額に加えて、実際の平成25年度の交付(予定)額を増やすこととした。平成25年度においては、まずそのシリーズ形式の図書の購入が、既に使用計画に組み込まれている。 そのほか引き続き、日本文学関係図書(日本中世文学関係研究図書など)・日本史学関係図書(日本中世史学関係研究図書など)といった研究図書を、必要によって購入することが、使用計画の中心となる。 それ以外にも、資料の収集・調査費あるいは資料複写費に研究費を投入していく。また次年度には平成24年度以上に、電子機器などの消耗品費にも研究費を投じることを予定している。
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