2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720113
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田村 隆 東京大学, 総合文化研究科, 講師 (70432896)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 奈良絵本 / 板本 / 伊勢物語 / 源氏物語 / 竹取物語 / 挿絵 |
Research Abstract |
平成24年度は、『伊勢物語』、『源氏物語』、『竹取物語』の奈良絵本・絵巻や板本について、各地の図書館等に所蔵される諸本の複写資料やデジタル資料を蒐集し、その絵と本文を調査した。『伊勢物語』については、本研究課題の大前提となる「板本から奈良絵本・絵巻へ」という製作の過程を九州大学附属図書館蔵本や広島大学附属図書館蔵本・國學院大学図書館蔵本など複数の奈良絵本・絵巻において確認した上で、初段を描いた挿絵(二図)を取り上げて季節の問題を検討した。 初段の挿絵では製作された時代が下るにつれ、第一図の季節が春から秋へと変化し(それは画面に描かれるのが梅から紅葉に変わっていることから確認できる)、第二図の花が梅から桜へと変わっている。その変遷を嵯峨本に始まる各種板本と、板本に基づいて製作された奈良絵本・絵巻について詳細に調査した。そこには後代の絵師達のそれぞれの工夫の跡が見られる。この成果については近く学会において口頭発表の予定である。また、奈良絵本・絵巻に描かれた「藤棚」を手がかりに、藤の花の描き方が場面や製作年代によって異なることを明らかにし、これについても、2月に行った若手研究者の研究会において口頭で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗はおおむね順調であると言える。調査対象とするそれぞれの作品の奈良絵本・絵巻や板本について、諸本の複写資料やデジタル資料の蒐集は順調に進んでいる。それらを用いての具体的な研究成果も特に『伊勢物語』に関して上述のように挙がりつつあり、逐次報告・公表している。尚、奈良絵本・絵巻と板本の本文異同については、確たる影響関係を指摘しがたい事例も見られ、それらの更なる検討が今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
先にも述べたように、調査対象とするそれぞれの作品の奈良絵本・絵巻や板本について、諸本の複写資料やデジタル資料の蒐集は順調に進んでおり、今後もそれらの資料を用いて「板本から奈良絵本・絵巻へ」という奈良絵本・絵巻の製作事情をより広い文脈で明らかにしていきたいと考えている。そのために、各作品において、奈良絵本・絵巻と板本との(1)本文の比較、(2)挿絵の比較、(3)表記の比較の三つを試みたい。特に(3)に関しては、板本に基づいて奈良絵本・絵巻を製作する際、板本の段階では漢字であった文字を平仮名に開く例が散見されることに注目している。これは「より絵本らしく・より絵巻らしく」という意識の現れであるとも考えられ、今後は表記の観点にも十分目配りしつつ考察を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は『伊勢物語』、『竹取物語』を中心に、奈良絵本・絵巻と板本の関係を調査したいと考えている。『伊勢物語』については上述の「季節」「藤棚」等の問題をさらに進め、『竹取物語』については諸本の整理から始めて本文異同・絵と本文の考察、および奈良絵本・絵巻と板本との影響関係の調査に取り組む予定である。具体的なテキストとしては、正保二年刊の『竹取物語』や九州大学附属図書館所蔵の『竹取物語絵巻』、奈良絵本とは画風が異なるが参照資料として東京大学文学部所蔵の『竹取物語絵巻』等を考えている。研究費は資料の調査(原本閲覧・複写の蒐集など)および成果を発表するための学会出席に要する旅費等に使用する計画である。
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Research Products
(2 results)