2013 Fiscal Year Research-status Report
20世紀後期の環太平洋とアメリカ文学・映像文化:記憶と主体の生成変化
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24720126
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
井上 間従文 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 准教授 (50511630)
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Keywords | トランスナショナリズム / 「歴史」と「時間」 / 共同性 / アメリカ文学 / トランスパシフィック |
Research Abstract |
平成25年度は次の学会発表と論文執筆・掲載を行った。まず4月にシンポジウム”Supernatural Asia”にて、韓国系アメリカ人作家テレサ・チャの映像作品における亡霊的イメージの持つ政治倫理的意義について発表を行った。6月には台湾にて開催の国際学会”Except Asia: Agamben’s Work in Transnational Perspective”にて、米軍統治下沖縄における現代詩において「もの」や「オブジェ」という概念やそのイメージが、重層的に決定された権力空間から逃れうる「外部的」領域を示していたことを発表した。また7月にはシンガポールにて開催された"Inter-Asia Cultural Studies"学会において、新自由主義時代のアメリカと東アジア映画においてみられる「情動」の持つ批判的な意義について発表をした。また、3月にはニューヨーク大学にて開催されたアメリカ比較文学会の年次大会に参加し、韓国系アメリカ人詩人ミョンミ・キムの詩集Commonsにおいて、色や音といった感性的・美的な対象物が「出来事」として表出し、1980年光州民主化運動などの記憶を更新しながら、分有させていく事について言及した。 また、論文”Theresa Hak Kyun Cha’s ‘Phantomnation’”がアメリカの文学研究雑誌Criticismに掲載された。この論文は従来アジア系アメリカ文学研究の「正典」として理解されて来た傾向のあるチャの文学・映像作品理解を、ナショナリティを含むアイデンティティ・ポリティクスではないかたちの「亡霊的(憑在的)共同性」とも言える立場からかなり大幅に再検討を加えたものであった。またチャがフランスにて交流を持ったとされる、ボードリーやメッツといった研究者が広めた「アパラタス」理論を、チャが彼女の文学・映像作品においてどのように受容し、変更を加えたのかについても調査と考察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦後および20世紀後期においてアメリカ、韓国、沖縄などの地域を結びかたちで進展した「帝国」的ネットワークにおいて、その権力の格子に抗うかたちでいかにして、特に「韓国系」と括られることの多い文学者や映像作家がどのような作品を発表したのかについては、おおむね順調に調査と論文執筆が進んでおり、その成果の一部をアメリカの学会誌に掲載している。 また同時期にアメリカ社会とアジア諸地域に大きな影響を及ぼしたベトナム戦争期とベトナム戦争後に作られた現代詩と映画作品についての研究を進めている。この研究のためには、調査および作家と研究者からの聞き取りを要する面がまだ残されているが、最終年度である平成26年度それら作業を行うことで、学会発表、論文掲載などを行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成26年度には、アメリカでいう所の「ベトナム戦争」期にロバート・スミッソン、アラン・ギンズバーグといったアーティストや詩人が作成した諸作品におけるバロック的な時間と空間意識についての研究を進める。また同時に、「ベトナム戦争」後にマヤ・リン、トリン・T・ミンハといった「アジア系」作家たちが行った、アイデンティティが統御する政治表象空間において「凋落」しながら「生成変化」を遂げる諸イメージについての研究を行うことで、アメリカ文化、文学、芸術においてこの戦争が強いたある種の出来事と生成変化についての研究をまとめる。これらの目的を達成するためにアーカイブ調査、作家と研究者からの聞き取り調査、学会発表、および英語圏の査読誌への論文投稿などを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者は2014年3月にニューヨーク大学にて開催されたアメリカ比較文学会年次大会にて論文発表等を行ったが、この際、日本国内での研究会出席等の事由により、ニューヨーク滞在期間を当初よりも2日ほど短縮した。このことにより次年度使用額が発生した。 平成25年度に生じた次年度使用額を用いて、平成26年度、北カリフォルニアにて行う予定のアーカイブ調査および聞き取り調査の期間を2~3日程度延長して行うことを検討している。
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Research Products
(6 results)