2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720128
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | University of Kochi |
Principal Investigator |
山口 善成 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (60364139)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 英米文学 / 文学一般 / 文学論 / 注釈 |
Research Abstract |
文学研究における注釈の意義について、本年度は歴史的、理論的な側面からアプローチした。目下、分析が最も進んでいるのは歴史学の発展における注釈の役割についての考察で、これはハーバード大学初代歴史学部教授ジャレド・スパークスの史料編集を題材に、近く学術誌にて成果を発表予定である(タイトルは "Jared Sparks Protocol: Quotation Marks, Footnotes and the (Mis-)Handling of Historical Materials")。スパークスが活躍した19世紀初頭は、これまで散逸するなどして入手できなかった史料が、次々に利用可能になった時代だった。スパークス自身、長らくイギリスに保管されていたジョージ・ワシントンの文書をアメリカに取り戻した功績者である。こうして次第に利用可能な史料が増えてきた時、次に問題となったのは、その膨大な文献をいかに整頓し、意味のあるまとまりに編集するかということだった。本研究はスパークスの史料編集作業における注釈と引用符の扱い方について考察し、注釈や引用符といった補助装置が文書全体の統一性に寄与すると同時に、そこに亀裂を入れてしまうものであった(もしくはそのように考えられていた)ことを例証する。今後の研究では、このような注釈の二重性を積極的に評価し、注釈という仕事の再評価につなげたい。 国際学会Conversazioni in Italiaにて発表したラルフ・ウォルド・エマソン論は、主としてエマソンの歴史思想を地質学的な時間感覚との関連から考察したが、あわせて時代や地域を越えた知的ネットワークにおける注釈の役割についても言及した。また、「コメンタリー」を含む注釈実践の一環として、アメリカ、エマソン協会の機関紙_Emerson Society Papers_ (Fall 2012)に書評を投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文学研究における注釈の歴史的および理論的研究は、ジャレド・スパークスの史料編集に関する考察を通じて一つの道筋をつけられたと考えている。その他、宗教学や書誌学における注釈の意義についてはまだもう少し文献調査と分析を続ける必要があるが、スパークス論をもとに議論をまとめるつもりである。当初、理論的・歴史的アプローチは本年度で区切りをつける計画だったが、二年目の注釈実践のテクストに歴史家ヘンリー・アダムズを取り上げることもあり、アダムズ自身の歴史記述の注釈方法に関する分析など、今後も注釈の実践とあわせて理論的な考察も続けたい。 また、本年度は研究計画の三年目で行う予定の「注釈文学」の理論化について、予備的な調査と文献収集を行うことができた。さらに四年目に予定している文学教育における注釈の実践についても暫定的な授業計画を策定し、その一部は平成25年度(研究年度二年目)に学部、大学院の授業で実施することになっている。 以上、注釈の歴史と理論について一定の見解をまとめることができたこと、そして四年間の研究計画の全体的な枠組みを組み立てることができたことから、本年度の研究は概ね順調に進展したと自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、これまでに考察した注釈の歴史と理論を踏まえ、注釈による文学研究の可能性を実践的に検証する。対象テクストとしては、アメリカの歴史記述について数年来行ってきた研究成果をもとに、ヘンリー・アダムズの_The Degradation of the Democratic Dogma_と_The Education of Henry Adams_を取り上げる。後者の_The Education of Henry Adams_については邦訳が存在するが、翻訳後すでに60年近く経っていること、また必ずしも今日の文学研究がヘンリー・アダムズについて議論を尽くしていないことを考慮し、再評価の意味をこめてあらためて翻訳・注釈を行うこととしたい。念頭に置いているのは、内容理解に不可欠な基礎的情報を提供する注釈(annotation)、テクスト相互を関係づけ文脈化する注釈(contextualization)、テクストが持つ意味を再考するコメンタリーとしての注釈(commentary)、である。 平成25年度は注釈の実践に重点を置くが、注釈の歴史的・理論的考察についても引き続き進め、これを平成26年度に計画しているさらなる注釈の理論化、すなわち「注釈文学」に関する議論の準備としたい。これは注釈と創作の関係についての分析で、例えば注釈の創作的な可能性を展開させたウラジミール・ナボコフの_Pale Fire_等を用いて、注釈文学のジャンル確立を提起するものである。平成24年度に分析した学問の世界における注釈の理論を入り口に考察を進める。 最終年度の平成27年度は、再度実践的な研究に重点を置き、これまでの研究成果を踏まえ、文学教育における注釈の有効性を再検証する。具体的には勤務校での文学の授業を活用し、テクストの深層の触れる手段としての注釈を用い、文学教育の一つの実践例として提案したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度に引き続いて注釈に関する文献および研究書をジャンル横断的に購入する。歴史学における注釈についての研究はある程度済んでいるので、今後は書誌学、宗教学における注釈についてさらに広く文献を収集する。また、よい注釈の実践例も集める予定である。あわせて、平成25年度は実際にヘンリー・アダムズのテクストを用いて注釈の実践を行うので、そのために必要な文献、図書を随時購入する。 注釈の実践の公表には、現在のところウェブサイトの開設を検討している。そのための機材やソフトウェアを購入する。また、注釈にあわせて行う翻訳については、出版の可能性も検討している。そのための費用についても、次年度以降の予算執行計画に組み込んでいきたい。 注釈の歴史や理論に関する研究発表も引き続き行う予定で、そのための旅費を計上する。比較的大きな支出を予定しているのは、さしあたって9月にニューヨーク州シラキューズで開催される国際学会The Return of the Textで、フランシス・パークマンを題材に研究発表することが決まっている。 また、注釈の理論に関する研究会を計画しているため、その為の旅費等の経費を計上する。この研究会は学会における「ワークショップ」部門参加の準備会議の役割を担うことになる。 次年度への繰り越し金が発生した理由は、参加を予定していた日本アメリカ文学会全国大会に出席できなかったためである。余った予算は図書購入等にあてたが、それでも4万円ほど次年度に送ることになった。次年度は上記の国際学会に加え、国内学会も例年通り出席する予定なので、繰り越し金は主に学会出張費に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)